クローズアップ2008:6カ国合意1年 「核申告」で立ち往生


−2008年2月14日 毎日新聞−



 北朝鮮の核廃棄に向け、6カ国協議参加国が取るべき「初期段階措置」を明記した「2・13共同声明」の採択から13日で1年となった。2月は16日に金正日(キムジョンイル)総書記の66歳の誕生日、25日に韓国の李明博(イミョンバク)次期大統領の就任式、26日にはニューヨーク・フィルハーモニックの平壌公演など朝鮮半島で大きな行事が続く。だが、北朝鮮が確約した「核計画の完全申告」について、北朝鮮と米国の見解は異なり依然、6カ国協議再開のめどは立っていない。

 ◇北朝鮮、模様眺め−−外資導入の道筋探る

 北朝鮮は最高指導者の誕生日を特別な準備で迎える。金総書記の好きなフィギュアスケートの祝典、品質改良してつくられた「金正日花」の展示会、各種の集会、映画会……。16日まで祝賀行事が目白押しな一方、指導部の決裁は滞る。非核化も例外ではない。

 昨年の誕生日直前。2・13合意で北朝鮮は「核計画完全申告」「核施設の無能力化」を受け入れた。10月に年内履行を約束したが、年明け早々「07年11月に申告書を作成した」(外務省報道官)と申告は終了したとの立場を表明し、米国との見解の違いが露呈。無能力化もロシアの重油支援遅延に対応して核施設の核燃料棒取り出し作業を遅らせ、完了は5月ごろにずれ込む恐れも出てきた。

 北朝鮮はブッシュ米政権がさらなる譲歩を示すか見極めようとしている。みずから譲歩する考えはない。時には米強硬派の動きを念頭に「米国の好戦勢力が強硬一辺倒で出るなら、それに対抗した選択を取らざるを得ない」(8日付朝鮮労働党機関紙「労働新聞」)などと牽制もする。

 韓国の李明博次期政権の対北政策も注視しているようだ。李氏は当選後、昨年10月の南北首脳会談の合意事項を再検討する姿勢を示したが、北朝鮮は静観、南北間の実務協議はほぼ予定どおり進んでいる。「日米の強硬派の動きを抑えるためにも南北対話を停滞させるのは得策でないとの判断が北朝鮮にある」(韓国統一省当局者)との指摘も出る。

 北朝鮮は「新年共同社説」で、2012年の故金日成(キムイルソン)国家主席生誕100周年に向けてことしは「経済と人民生活を高い水準に引き上げ、強盛大国の大きな扉(注:原文は「大門」)を開く」転換の年と位置づけた。だが、自力での経済再建は困難で対外関係改善による資本導入が不可欠だ。

 北朝鮮は米国が冷戦後、核流出防止のため旧ソ連の戦略核などの解体を財政支援した「ナン・ルーガー計画」に関心を示す。北朝鮮政権に近い関係者は指摘する。「核問題は金銭の取引で解決する話。指導部はそういう環境にいかに持っていくかを探っている」【北京・西岡省二】


 ◇米、打開めどなく−−各国連携、亀裂入る

 米上院外交委員会が6日に開いた6カ国協議の公聴会。米首席代表のヒル国務次官補は「すべての核計画の申告」で事態打開への見通しを示せず、「北朝鮮(政府)には核放棄に合意しない多くの人がいる」と証言した。

 複数の協議筋によると、米朝は焦点のウラン濃縮計画とシリアへの核技術協力疑惑で「やった」「やっていない」の応酬で立ち往生。2日まで訪朝したソン・キム国務省朝鮮部長は申告をめぐり一定の妥協案を示したが、進展はなかった。

 米国では「中国が十分に北朝鮮へ圧力をかけていない」(ビクター・チャ前米次席代表)との不満も出る。ある外交筋は「米国は証拠を十分に開示せずにウラン濃縮問題などに固執している。中国は『それなら知らない』という態度だ」と説明し、6カ国協議で各国の連携にも亀裂が生じていると明かす。

 北朝鮮が米国に求めるテロ支援国家指定解除問題も変化が見えてこない。米朝交渉に詳しい米関係筋は、解除問題と日本人拉致問題は「ソフト・リンケージ(緩やかな関連付け)だ」と明かす。

 米国は北朝鮮に、指定解除には「二つの引き金」があると伝え、「国際テロを支援していない」との法的条件と「すべての核計画の申告」という政治的条件を満たすよう要求。その上で「指定解除は政治判断。拉致問題の進展こそ、その後押しになる」と北朝鮮に働きかけているという。

 一方、ブッシュ政権には寧辺(ニョンビョン)の核施設の無能力化が進んでいることで成果を残したとの自負もある。マコーマック国務省報道官は4日、無能力化作業の全11工程のうち、9番目の段階に入ったと明らかにした。だが、「米国は(北朝鮮の核放棄という)戦略的目標に近づいたと言えるのか」(米マンスフィールド財団のゴードン・フレーク所長)など、疑問を呈する声もある。

 米国に、事態打開を図る有力なテコはない。元米政府高官は「北朝鮮に核放棄の意思がないとわかっても、ブッシュ政権は今さら交渉の軌道修正はできない」と指摘する。【ワシントン笠原敏彦】


 ◇路線転換、成果ゼロ−−「拉致」進展せず、いら立つ日本

 福田康夫首相は昨年9月の就任時、圧力路線を掲げた安倍前政権から一転、対話路線を掲げて拉致問題の決着に強い意欲を表明した。しかし、現状は膠着状態で、路線転換の成果は上がっていない。政府内にはいら立ちから「核問題が進展しなくても拉致問題を打開する方策を探るべきだ」との異論も出ており、対話路線を堅持することも容易でない。

 「北朝鮮側のもう少し積極的な対応を期待している」。町村信孝官房長官は13日の会見で、北朝鮮への不満をこぼした。米朝協議の進展を受けて昨年9月、日朝の交渉も「できる限り頻繁に」行うと合意。非公式協議が何度か行われた。だがそれも、北朝鮮のテロ支援国家指定解除と核計画の申告をめぐって米朝がにらみ合うようになった昨年11月以降途絶えている。

 当面は外的環境の変化を待つしかない。福田首相は25日、李明博次期韓国大統領との会談で、盧武鉉(ノムヒョン)時代とは打って変わった日韓の連携強化を見せつけ、風穴を開けたい考えだ。

 4月には日本独自の対北朝鮮経済制裁が期限切れを迎えるが、再延長すれば北朝鮮側の反発は必至。福田対話路線は難しいかじ取りを強いられている。【中澤雄大】


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■合意事項の進ちょく状況■

2007年 11月05日  寧辺核施設の無能力化作業に着手
12月13日  寧辺の黒鉛減速炉の燃料棒抜き取り開始
12月16日  毎月5万トンの重油支援に加え、重油の代替物5000トンの鉄鋼類を積んだ船が北朝鮮に向け出港
2008年 01月23日  米大統領報道官が「北朝鮮が核計画の申告をしない限りテロ支援国家指定を解除しない」と表明
01月30日  金総書記が中国共産党幹部と会談し「(6カ国協議で)合意した取り決めを堅持する立場に変わりはない」と発言
02月06日  ヒル氏が議会公聴会で、ウラン濃縮計画と核拡散問題で北朝鮮が「過去の行為」を認めるかどうかが焦点になっていると説明

毎日新聞 2008年2月14日 東京朝刊


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