朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国間の
基本合意文
−1994年9月23日〜10月21日−

 朝鮮民主主義人民共和国政府代表団とアメリカ合衆国政府代表団は、1994年9月23日から10月21日までジュネーブで、朝鮮半島の核問題の全面的解決に関する会談をおこなった。

 双方は、朝鮮半島の非核化、平和と安全をなし遂げるために、1994年8月12日付朝米合意声明に明記された諸目標を達成し、1993年6月11日付朝米共同声明の諸原則を堅持することのもつ重要性を再確認した。

 朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、核問題の解決のために、次のような行動措置をとることを決定した。

 1.双方は、朝鮮民主主義人民共和国の黒鉛減速炉と関連施設を軽水炉発電所へ転換するために協力する。

 (1)アメリカ合衆国は、1994年10月20日付のアメリカ合衆国大統領の保証書簡にしたがい、2003年までに200万キロワット発電能力の軽水炉発電所を朝鮮民主主義人民共和国に提供するための諸措置を責任をもって講じる。
 −アメリカ合衆国は、みずからの主導のもとに朝鮮民主主義人民共和国に提供する軽水炉発電所の資金と設備を保障するための国際連合体を組織する。この国際連合体を代表するアメリカ合衆国は、軽水炉提供事業において朝鮮民主主義人民共和国の基本的相手方となる。
 −アメリカ合衆国は、連合体を代表して本合意文が署名された日から6か月以内に朝鮮民主主義人民共和国と軽水炉提供契約を締結するために最善をつくす。契約を締結するための協商は、本合意文が署名された後できるだけ早い時日内に開始される。
 −朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、必要に応じて原子力エネルギーの平和的利用分野における二国間協力のための協定を締結する。

 (2)アメリカ合衆国は、1994年10月20日付アメリカ合衆国大統領の保証書簡に従い、連合体を代表して1号軽水炉発電所が完成するまでの間、朝鮮民主主義人民共和国の黒鉛減速炉と関連施設の凍結に伴うエネルギーの損失を補償するための諸措置を講じる。
 −代替エネルギーは、熱および電力生産用の重油を提供する。
 −重油の納入は本合意文が署名された日から3か月以内に開始し、納入量は、合意された計画に従って毎年50万トン水準におよぶものとする。

 (3)軽水炉提供と代替エネルギー保障に対するアメリカ合衆国の保証を受けるに伴って、朝鮮民主主義人民共和国は、黒鉛減速炉と関連施設を凍結し、究極的には解体する。
 −朝鮮民主主義人民共和国の黒鉛減速炉と関連施設に対する凍結は、本合意文が署名された日から1か月以内に完全に実施する。この1か月間とその後の凍結期間に、朝鮮民主主義人民共和国は、国際原子力機関が凍結状態を監視することを許容し、機関に対し、このための協力を十分に提供する。
 −軽水炉施設が完全に実現したとき、朝鮮民主主義人民共和国の黒鉛減速炉と関連施設は完全に解体される。
 −軽水炉施設建設期間、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、5メガワット実験用原子炉から抜き取った使用済み燃料の安全な保管方途と、朝鮮民主主義人民共和国で再処理せずに、他の安全な方法で使用済み燃料を処分するための方途を探求するために協力する。

 (4)朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、本合意文が署名された後できるだけ早い時日内に二つの専門家協商を行なう。
 −一つの専門家協商では、代替エネルギーと関連する諸問題と、黒鉛減速炉計画を軽水炉施設へ転換するうえで提起される関連問題を討議する。
 −もう一つの専門家協商では、使用済み燃料の保管および最終処分のための具体的な諸措置について討議する。

 2.双方は、政治および経済関係の完全な正常化へと進む。

 (1)双方は、本合意文が署名された後3か月以内に通信サービスと金融決裁に対する制限措置の解消を含む貿易と投資の障壁を緩和する。

 (2)双方は、専門家協商において領事およびその他の実務的諸問題が解決されるに伴い、相手側の首都に連絡事務所を相互開設する。

 (3)朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は、相互に関心事となる諸問題の解決が進展するに伴い、両国関係を大使級に昇格させる。

 3.双方は、朝鮮半島の非核化、平和と安全のために共同で努力する。

 (1)アメリカ合衆国は、核兵器を使用せず、核兵器で威嚇もしないという公式の保証を朝鮮民主主義人民共和国に提供する。

 (2)朝鮮民主主義人民共和国は、終始一貫して朝鮮半島の非核化に関する南北共同宣言を履行するための諸措置を講じる。

 (3)朝鮮民主主義人民共和国は、本基本合意文によって対話をはかる雰囲気がつくりだされるに伴って南北対話を行なう。

 4.双方は、国際的な核拡散防止体制を強化するために共同で努力する。

 (1)朝鮮民主主義人民共和国は、核兵器拡散防止条約の加盟国として残り、条約に基づく保障措置協定の履行を許容する。

 (2)軽水炉提供契約が締結されれば、凍結されない施設に対する朝鮮民主主義人民共和国と国際原子力機関間の保障措置協定に基づく通常および特定査察が再開される。契約が締結されるまでは、凍結されない施設に対する保障措置の継続性を保障するための国際原子力機関の査察が継続される。

 (3)軽水炉施設の相当部分が実現した後、また主要核関連部品が納入される前に、朝鮮民主主義人民共和国は国際原子力機関と核物質冒頭報告書の正確性および完全性の検証と関連する協商を行ない、それに従って機関が必要であると見なすすべての措置を講じることを含め機関との保障措置を完全に履行する。

  朝鮮民主主義人民共和国代表団団長
  朝鮮民主主義人民共和国外交部第1副部長 姜錫柱

  アメリカ合衆国代表団団長
  アメリカ合衆国巡回大使 ロバート・L・ガルーチ

1994年10月21日  ジュネーブ

朝米基本合意文関連文書

 クリントン米大統領の保証書簡
1994年10月20日−
 
平壌
朝鮮民主主義人民共和国最高指導者
金正日閣下

 閣下
 私は、みずからのあらゆる職権を行使し、朝鮮民主主義人民共和国に提供される軽水炉発電所施設の資金保障と建設に関する諸措置を推進させ、1号軽水炉発電所が完成するまでの間、朝鮮民主主義人民共和国に提供する代替エネルギー保障に必要な資金調達と、その履行のための諸措置を推進させることをあなたに確言するものであります。
 これとともに私は、この原子炉施設が朝鮮民主主義人民共和国の責任ではない他の諸理由によって完成できなくなった場合、私のあらゆる職権を行使して、アメリカ合衆国議会の承認のもとに、アメリカ合衆国が直接引き受けて完成させるようにするでありましょう。同時に私は、代替エネルギーが朝鮮民主主義人民共和国の責任ではない他の諸理由によって提供されなくなった場合、私のあらゆる職権を行使して、アメリカ合衆国議会の承認のもとにアメリカ合衆国が直接引き受けて提供するようにするでありましょう。
 私は、朝鮮民主主義人民共和国が、アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国間の基本合意文に指摘された諸政策をひきつづき履行する限り、以上の行動方針を堅持するでありましょう。
 敬意を表しながら。
    アメリカ合衆国大統領 ビル・クリントン
1994年10月20日 ワシントン・ホワイトハウス
 
 基本合意文は朝鮮半島の核問題解決で里程標
 −調印式後の朝鮮側代表団長の記者会見(10.21)−
 
  朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ間の基本合意文の調印が終わった後、朝米会談朝鮮側代表団団長の姜錫柱外交部第1副部長は10月21日、ジュネーブ駐在共和国代表部で記者会見を行なった。

 記者会見には、アメリカ、日本、ドイツ、フランス、スイス、ロシアなど20余か国の記者100余名と南朝鮮の記者20余名が参加した。

 代表団団長は、記者会見で次のように述べた。

 ほぼ、1年半にわたる真摯で困難な朝米会談は、ついに結末を見た。
 きょう双方は、核問題の全面的解決に関する朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国間の基本合意文に署名した。

 この合意文は、朝鮮半島の核問題解決のための里程標となり、歴史的意義をもつ文書として朝米間の非正常な関係から発生した核問題を根源的解決するための具体的方途が反映されている。
 このように重大な文書であるがゆえに、両国の国家首班が保証したのである。

 朝鮮民主主義人民共和国最高指導者の親愛なる金正日同志あてに今回、アメリカ合衆国のビル・クリントン大統領が軽水炉提供と代替エネルギー供給を保証する書簡を送った。クリントン大統領は、米国側のガルーチ団長に対し、基本合意文に署名するよう指示した。
 我が党と人民の最高指導者である親愛なる金正日同志は、私に対し、朝米基本合意文に署名するよう指示した。

 双方は今回、我が共和国の黒鉛炉システムを軽水炉システムに転換する問題、朝米間の政治および経済関係正常化問題、朝鮮半島の非核化、平和と安全保障問題、核拡散防止体系を強化する問題について具体的に論議し、合意を見た。
 我々は、基本合意文に核問題解決のための当方の正当な立場と主動的な発議が十分に反映されたと認め、合意文を肯定的に評価する。

 合意文はまた、両国間の非正常な敵対関係を解消して、信頼を醸成し、朝鮮半島とアジアの平和と安全に寄与できる歴史的な文書である。

 今回の合意文で双方は、朝鮮半島の非核化、平和と安全を達成するために1993年6月11日付朝米共同声明の諸原則を堅持し、1994年8月12日付朝米合意声明に明記された諸目標を達成することがもつ重要性について再確認した。

 姜第1副部長はつづいて基本合意文の内容を詳細に説明した後、次のように述べた。

 この機会に朝鮮半島の核問題の本質について、改めて明白にする。

 朝鮮半島の核問題は、朝米間の非正常な関係のために発生したものである。

 今、一部では、当方の原子力開発に対し、3つに区分して語られている。
 すなわち、当方の原子力開発の現在と未来、過去についてである。当方の原子力開発の現在とは5メガワット実験炉とこの原子炉から出た使用済み燃料であり、未来とは現在建設中の50メガワットと200メガワットの原子炉を念頭に置いたものであろう。

 これらの黒鉛炉と関連施設は、徹底して電力生産を目的として建設したものである。
 これについてありもしない「核疑惑」をつくりだすのは、完全に非正常なものである。
 既に、再三にわたって明らかにしたように、当方には核開発能力もなく「核開発意思」も、いかなる「計画」もない。しかし我々は、核問題を朝米協商をつうじて解決するとの真摯な願いから、核の憂慮をなくすためには当方の黒鉛炉を軽水炉に転換すれば良いと提議した。

 朝鮮人民の偉大な領袖金日成同志は去る6月、カーター元米大統領に対し軽水炉提供をつうじた信頼保障が核問題解決の根本方途であり、アメリカが軽水炉を提供すれば「核の憂慮」となっている黒鉛炉をなくすことができると述べた。

 我々が今回、当方の原子力開発の現在と未来を凍結することにより、いわゆる当方の「核開発」の憂慮は完全に解消された。黒鉛炉と軽水炉をかえることで核問題を解決するとの当方の正当な提案は、今日に至ってはじめて実を結ぶ基礎をもつことになった。結局、ありもしない「憂慮」と「疑惑」が軽水炉提供と朝米間の政治、経済関係の正常化へと転換されたわけである。
 しかし、黒鉛炉施設を凍結することになるが、その物理的な実体は、我が国の地に軽水炉発電所が導入されて操業を開始した後に解体することになる。
 今、一部で、当方の原子力開発の過去の問題について語られているが、過去の問題は純粋に憶測に過ぎない。これは、朝米間のこりかたまった不信と極めて非正常な関係に由来したものである。

 過去問題について何かあったかのように云々するのは、全く非正常なことである。
 しかし、過去問題が実際に存在するとすれば、それは当方とIAEA間に提起されたことのある「不一致」の解明問題である。
 この「不一致」の解明も、当方とIAEA間に極めて非正常で複雑な状態がつくりだされたことによって中断された問題である。
 我々は、「不一致」を解明しようとの立場である。「不一致」の解明をどの時点で行なうのかという問題が、今回の会談で深刻に論議された。
 それは、当方の原子力開発の過去が問題視されたこと自体が朝米間の不信とアメリカの対朝鮮敵視政策から出たものであり、「不一致」の解明時点も、両国間の不信と敵対関係が解消さえるのに応じて決定されるべきだからである。具体的に言えば、軽水炉施設の相当部分が完成したとき、そして朝米間の関係が正常化される時期になって当方の核の透明性が保障されるであろう。

 次に強調したい問題は、今回の合意文に核問題解決に関する当方の原則的立場と現実的な方途が具体的に反映されているという点である。
 我々は、核問題の発生当初から朝米会談をつうじて解決するとの原則的立場を一貫して堅持してきた。解決方法と関連しても、徹底的に同時行動に基づく一括妥結の方法で核問題を解決するという最も合理的で妥当な提案を示し、その実現のために全力をつくした。

 こうした当方の主張と提案が今回の合意文に十分に反映されたので、我々は合意文に満足している。
 最も重要なことは、双方が今回の合意文に明記された諸事項を正確に履行することである。我々は、合意文の諸事項を誠実に履行し、朝鮮半島の非核化とアジアの平和と安全に寄与するために全力をつくすであろう。

 今回の合意文に基づいて当方が解決すべきことよりも、対話相手側であるアメリカがなすべきことの方がはるかに多いと考える。我々は、アメリカ側も当方の誠意に呼応して既に約束したとおりに合意文の履行において最大の誠意を示すものと期待する。

 姜第1副部長は、記者たちの質問に答えて次のように強調した。

 我々は、朝鮮人民の一致した心情をこめて、親愛なる金正日同志を朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者、我が党と人民の偉大な領導者との尊称で呼んでいると述べた。
 朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者である金正日同志は、偉大な領袖の唯一の後継者として世界に公認され、深い尊敬を受けている。
 今回、アメリカのクリントン大統領もこうした現実を認めたので、親愛なる指導者同志に送った保証書簡で「朝鮮民主主義人民共和国最高指導者 金正日閣下」との尊称を使用したのだと思う。

 今回、双方が軽水炉施設の相当部分が完成したときに当方とIAEA間の協議に基づいて冒頭報告書検証のための措置を講じることで合意したが、それまで何年かかるかは、正確に特定することはできない。
 しかし、きょうからはじまって6か月内に契約を締結し、軽水炉を建設する敷地調査完了、基礎工事、基本的な建物と補助的な建物の建設、多くの設備の納入まで、という点を念頭におくと、多くの時間がかかるであろう。
 アメリカ側のガルーチ団長は約5年程度かかると述べたが、私もやはり、そのくらいかかるのではないかと思う。

 今回の会談は、徹底して核問題の全面的解決に関する朝米間の会談である。
 ここに南北対話問題が直接関連しているとは思わない。
 南北対話と関連した当方の立場は一貫している。既に合意文書で明らかにしたように、朝米基本合意文によって南北対話をはかる雰囲気がつくりだされるのに伴って対話を行なうであろう。
 
 解説 朝米基本合意文調印の意義
歴史的転換を告げる画期的合意
  1994年10月21日、ジュネーブのレマン湖畔にある朝鮮民主主義人民共和国国連代表部で朝米基本合意文調印式が行なわれた。両国代表団団長の満面の笑みと固い握手が印象的であった。
 「朝鮮半島の核問題解決のための里程標」(姜錫柱外交部第1副部長)、「朝鮮半島の核拡散の脅威に終止符を打つ米国の目標に貢献」(クリントン大統領)、「北の核問題の根源的解決の重要な基礎」(韓昇洲外務長官)。ピョンヤンとワシントンそしてソウル、その評価にニュアンス違いはあるものの、「核問題」解決のための協議をつうじて、朝鮮半島問題とそれをめぐる国際関係に大きな変化を予感させる歴史的合意を得たことに異論はないであろう。
 異例の長期化、困難を極めた交渉過程、合意内容、履行に対する「懸念」など、朝米高官会談を見るうえでさまざまの見方がある。しかし、国際法的にはまだ「交戦関係(停戦状態)」にある朝米両国が直接対話を開始し、曲折を経ながらも合意を重ね、外交文書調印にこぎつけたことの歴史的意義をまず強調したい。
 朝米両国は、「朝鮮半島核問題の根源的解決するうえで提起される政策的諸問題を討議」(第1ラウンド、共同声明)し、第2ラウンドでは「核問題の終局的な解決の一環として軽水炉」(同ラウンド報道文)導入と両国関係改善の問題を次のラウンドで協議することを決めた。そして、第3ラウンド第1セッションでは、それまでに決まった交渉の大枠に基づいてそれぞれのなすべきこと、すなわち問題解決の終着点を明らかにし、第2セッションでは、その履行過程を具体的に詰め、今回の基本合意文にいたっている。
 「北朝鮮が核のカードを使って援助を獲得」などと誹謗する声がある。これは、現実的に「核の脅威」を感じてきたのは、ソウルや東京、ましてワシントンなどではなく、ピョンヤンであるとの視点が欠落した誤解曲解である。
 アメリカは、核拡散の元凶と見なしているプルトニウムの保有・利用を源泉封鎖するという「好ましい先例」を確立した。
 一方、共和国側は、アメリカの核不使用保証を得るという成果をおさめた。アメリカにとっては、NPT再検討会議を
来年に控え、NPT加盟国への核不使用表明の絶好の先鞭となりうる。
 朝米どちらが多くを獲得し、どちらが多く譲歩したかなど、「勝ち負け」の視点で朝米対話をみるのはナンセンスである。双方が譲るべきは譲り、得るものは得て、「国益」を貫徹した。言うならば「外交」の常識がを行なわれたのである。
 朝鮮とアメリカという、大国と小国が、核保有国と非保有国が同等に話し合い、共通の利益を見出したのである。このことは、冷戦後の国際関係、国際秩序に新たな画期を開く先鞭をつけるものとなろう。

朝米、信頼構築の契機

 共和国側は今回、「国是」とも言える自立経済のかなめであるエネルギー問題で、外国への依存とも言える軽水炉への転換という決断を下した。そこには、「敵側との対決」という冷戦的な思考方式は見当たらない。
 「同じ価値観を有する諸国が協力して北朝鮮に合意の誠実な履行を迫る」などという、冷戦時代のイデオロギー対決を思わせる「陳腐な」考え方では、朝米合意の意義は把握できない。合意履行のためには、共和国だけでなく、朝米両国をはじめ関係諸国の努力が期待される。
 クリストファー米国務長官は10月21日の河野外相との電話会談で、「今回の合意の良い点は、北朝鮮が何かをし、米国が何かをすることで、北朝鮮が信頼できるか、常にチェックできることだ」と語ったという。共和国側としても、全く同じであろう。アメリカを信頼できるかどうかチェックできるすぐれた合意である。
 「黒鉛減速炉システムの軽水炉システムへの転換をとおした相互信頼の構築」、これが朝米合意の核心である。
 朝米合意の意義は、両国の敵対関係解消、信頼構築の契機をもたらしたことにある。
 ここで特に強調したいのは、双方のトップの政治的決断が、この画期的な合意を生み出したという点である。戦後の40数年を支配した冷戦秩序は崩壊したが、それにかわる国際秩序はまだ確立されていない。旧秩序にとらわれない政治的決断が新しい時代を開きうる。

当事者努力による南北統一に転機

 「朝鮮半島の核問題の全面的解決」(基本合意文)に展望が開けた。朝鮮半島と東北アジア、ひいては世界の平和と安全に大きく寄与することは疑いない。
 東北アジアの平和と安定は、朝鮮半島の平和と安定を抜きにして考えることはできない。南北の統一によってはじめて、朝鮮半島の平和と安定は強固なものとなる。南北の平和的統一は、対話によって実現される。軍事的な緊張のなかでは、南北対話はできないし、成立しても実を結ぶことはできない。それは、これまでの南北対話の歴史が雄弁に語っている。
 核問題の全面的解決に向けて、40数年間持続した朝米の敵対関係が解消されようとしている。専門家協議を経て両国の首都に連絡事務所を相互設置することが決まっており、大使級の外交関係樹立も念頭におかれている。敵対関係を国際法的に清算する時期も遠からず訪れよう。
 当面の軍事的緊張緩和に目途が立ったのである。本格的な南北対話が期待される。問題は、南側で50年近くつづいている「反共(反北)体制」を南北和解の時代にそくして転換することである。北側が冷戦的な対決思考を既に克服したことは前に述べた。南北共存・共栄に基づく90年代統一を故金日成主席の遺訓として実現するのが共和国の不動の立場である。
 南側の歴代の軍事政権が南北対決をみずからの存立の根拠としてきたことは、周知の事実である。そこでは、「軍縮」という単語自体がタブーであった。30数年ぶりに「文民大統領」が出現したが、彼がよって立つ地盤は前任者のそれをそのまま引き継いでいる。南北和解の趨勢を感知し、方向転換をはかることは至難の技のごとく見える。
 「北方外交による政治的優位」、「韓米軍事同盟による軍事的優位」に立って、南北対話で主導権を握る目算は崩れさろうとしている。外に援軍を求めるよりも、自主的努力が求められている。南北対話はアメリカに要請して始めるものではなく、対話の雰囲気をみずからつくりだす努力によって実現するものである。朝米合意文でも、合意によって「対話をはかる雰囲気がつくりだされるに伴って南北対話を行なう」となっている。
 今、南の国会で、南北対決の象徴である国家保安法の改廃問題が論議されようとしている。「いかなる同盟国も同族に勝るものではない」とした大統領就任時の民族重視の立場に立ち戻り、南北の平和共存、和解、対話と統一へ向けた体制づくりに本気で乗り出すべきである。南北和解時代の到来に危機感をもち背を向けているのは、ほんの一握りの人々である。大勢を直視し、決断を下す時期にきている。
1994.12.1「月刊 朝鮮資料」編集部
 
inserted by FC2 system