朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の首脳が会談
−2007年10月2日〜4日−

 朝鮮民主主義人民共和国の金正日国防委員長と南朝鮮の盧武鉉大統領の合意により、盧武鉉大統領が10月2日から4日まで平壌を訪問し、金正日委員長と会談した。

 北南首脳の対面は、2000年6月の金正日委員長と金大中前大統領以来、7年ぶり2回目である。

 北側メディアは、会談の詳細は報じていないが、金正日委員長と盧武鉉大統領の会談を「単独会談」と位置付けて「北南首脳の対面は、歴史的な6.15北南共同宣言と『わが民族同士』の精神にのっとって北南関係をより高い段階へ拡大、発展させ、朝鮮半島の平和と民族共同の繁栄、祖国統一の新たな局面を開くうえで重大な契機になる」と指摘した。

 会談の結果、金正日委員長と盧武鉉大統領が署名した「北南関係発展と平和繁栄のための宣言」が発表された。

 宣言には、6.15共同宣言を積極的に具現し、北南関係問題を和解と協力、統一に合致するよう解決すること、西海の共同漁労水域設定、北南国防相会談の11月開催、恒久的な平和体制構築のため3者、または4者首脳による終戦宣言、6者会談合意履行への共同努力、幅広い経済協力事業、白頭山観光や社会文化交流の発展、離散家族再会事業推進など8項目の内容が盛り込まれ、宣言履行のための北南総理会談を11月にソウルで開催することにした。

 金大中前大統領の平壌訪問は空路であったが、盧武鉉大統領は軍事境界線を徒歩で越え、陸路で平壌を訪問した。

 金正日委員長は2日、平壌の4.25文化会館前広場で盧武鉉大統領を出迎え、握手し、あいさつを交わした後、歓迎式典に参加した。

 金正日委員長は3日の会談に続き、4日には大統領夫妻のために昼食会を催した。

 盧武鉉大統領は滞在期間、最高人民会議常任委員会の金永南委員長と会談し、大マスゲーム・芸術公演「アリラン」や西海開門を参観、中央植物園で記念植樹をおこなった。

 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は連日、写真入りで多くの紙面をさいて首脳対面関連記事を掲載し、朝鮮中央放送と平壌放送も宣言全文を4日午後1時20分の臨時ニュースで伝えたのをはじめ、各定時ニュースのトップで関連報道を繰り返し伝えた。(朝鮮通信07.11.9)


朝鮮の北南首脳会談での金正日総書記の発言など
−2007年10月4日〜20日 日本の新聞、通信報道−

 10月4日 −韓国の盧武鉉大統領と北朝鮮の金正日総書記の3日午前の首脳会談でのやりとり要旨は次のとおり。

 ▽会談前
 金総書記 よくお休みになりましたか。
 盧大統領 よく休みました。宿舎が大変立派です。
 金総書記 この宿舎で金大中大統領(当時)もお休みになりました。水害のため首脳会談を延期することになりました。
 盧大統領 水害のため非常に心配しましたが、車に乗って来てみると、きれいに整理されていました。
 金総書記 しかし路面が悪く、不便をかけたと思います。

 ▽会談冒頭
 金総書記 盧大統領が平壌にいらしてくださり感謝します。(韓国側で軍事境界線を越える時などに)大変、立派な行事をおこなったという話を開きました。満足ですか。
 盧大統領 はい。
 金総書記 金大統領が空からいらっしゃって平和の近道を開いてくださり、突破口をつくられた。(盧武鉉)大統領は軍事境界線を越えて陸路でいらっしゃって、大きな意味があると思います。
 盧大統領 自分で(軍事境界線を)越えながら感動しました。越える姿を見守るわが国民も大きな感動を受けました。今後の南北関係発展に寄与するのではないかと思います。
 金総書記 今回、平壌に来られるのに、道路の整備をすべてすることができず、不便をかけたと思います。
 盧大統領 周辺の景観が本当に良かった。平壌に到着した時、平壌市民が出てきて大変温かく迎えてくれ、心から感謝します。道路がよく整備されていて、不便はありませんでした。
 金総書記 大統領がいらっしゃったのに(病気の)患者でもない私が家でごろごろしていることはないでしょう。(共同)

 −「明日の昼食は、時間の余裕を持って食事する方がいい。あさって朝、出発したらどうですか」
 金総書記は会談冒頭で、3日午後の日程を4日にこなし、1日延長する案を示した。この日の平壌は雨で、午後に予定された記念植樹が中止。夜のマスゲーム「アリラン公演」は結局決行したが、この時点では中止の見通しのほうが強かった。
 盧大統領が「警護と儀典に相談しなければ」と即答を避けると、金総書記は隣の金養建朝鮮労働党統一戦線部長に「大統領が決めれば済むのに」とぼやいた。
 北朝鮮の延長提案の背景には、米国や韓国が金正日体制をどれほど保証する意思があるのか、揺さぶりをかけたとみられる。
 午前の初会談で盧大統領が開城工業団地のような経済特区を幾つかの地域に拡大する提案をしたのにたいし、金総書記は韓国主導の経済改革に不満を見せた。「相互の体制を認め合う行事」(韓国政府当局者)として企画したアリラン公演の実施も微妙。さらに、北朝鮮核施設の無能力化と米国のテロ支援国家指定解除の年内実施を実質的に確約する6カ国協議合意が、予定の2日発表から3日夜にずれこんだ。さまざまな不満を伝えることで、盧大統領が状況打開に動く姿勢を示すか、試した可能性もある。
 青瓦台(大統領官邸)は会談中の午後3時半、「会談をより誠実にしようとする提案」と前向きに検討する方針を発表した。しかし、会談最後に金総書記は「十分に話し合ったので(延長)しなくてもいい。南側も(帰りを)待つ人がいるだろうから、予定どおりにしよう」と述べ、韓国の結論を待たず一方的に幕を下ろした。(毎日新聞10.4)

 10月5日 −北朝鮮の金正日総書記は4日の歓送昼食会で、ワインを飲みながらみずからの健康悪化説を否定。韓国側代表団と愉快そうに語り合った。
 韓国の同行取材団が撮った映像によると、金総書記は、昼食会でみずからテーブルを離れ、韓国側の参加者ひとりずつとワイングラスで乾杯を繰り返した。
 総書記は「(韓国で)私がまるで糖尿病や心臓病まで患っているように報道しているが、事実は全くそうではない」と強調。「我々の心臓病研究が少し弱いので人々を呼び、研究させているのだが、それを間違って報道している。記者ではなく作家のようだ」と語り、会場は笑いに包まれた。
 ことしになって総書記の心臓病手術のため、ドイツから医者が呼ばれた、との報道を念頭に置いた発言とみられる。さらにワインで顔を紅潮させた金総書記は「私のことが大きく報道されているのは気分が悪くない」と語り、快活だった。(朝日新聞10.5)

 10月6日 −北朝鮮の金正日総書記は、韓国の盧武鉉大統領との南北首脳会談で日朝間の懸案解決に期待感を示したが、その一方で、日本人拉致問題で踏み込んだ発言はしなかったもようだ。
 来日した韓国の沈允肇外交通商次官補は5日、高村正彦外相らと会い、首脳会談の概要を伝えた。
 それによると、盧大統領は「拉致問題と過去の清算の問題を解決して国交正常化を図りたい」とする福田康夫首相のメッセージを伝達。金総書記は「小泉純一郎首相と結んだ平壌宣言の時には大きな期待をかけていたが、その後の日本政府の対応で期待外れな結果となっている」と不満を表明したという。
 金総書記はまた「日本で政権がかわった。今後福田氏がどうするか見守りたい」とも述べた。(日本経済新聞10.6)

 −「私もインターネット専門家だ」。韓国の聯合ニュースは5日、北朝鮮の金正日総書記が3日の韓国の盧武鉉大統領との会談でこう発言していたと報じた。
 同ニュースによると、大統領は会談で、北朝鮮の開城工業団地に進出している韓国企業のためインターネットを使えるようにすべきだと指摘。これに対し、総書記は自分も専門家だとした上で「工業団地だけならいいが、北(北朝鮮)の別の地域までつながると問題が多い」と述べたという。
 大統領が平壌からの帰途に同団地を訪問した際、進出企業関係者らとの会合でこのエピソードを紹介した。(共同)

 −平壌で3日行われた南北首脳会談で、盧武鉉韓国大統領が軍事境界線周辺の非武装地帯(DMZ)の平和利用を提案したのにたいし、北朝鮮の金正日総書記が時期尚早と拒否したことがわかった。同行した金章洙韓国国防相が5日、記者会見で明らかにした。
 金国防相によると、盧大統領が提起したDMZに配置された監視所と銃火器の撤収について、金総書記は「まだ早すぎる。時期ではない」と述べたという。(毎日新聞10.6)

 10月9日 −盧武鉉韓国大統領の北朝鮮訪問に特別随行員として同行した文正仁国際安保特命大使は8日、ソウル駐在の外国メディアと懇談し、南北首脳会談の場で金正日総書記が「もうこれ以上、拉致された日本人はいない」と語ったと明らかにした。
 文大使によると、盧大統額が福田康夫首相のメッセージを伝達した後、「日本人拉致問題」と直接的な表現を使って解決を促したのにたいし、金総書記は解決済みの問題として話に応じなかった。一方、盧大統領が「日朝関係が改善されてこそ、南北協力に役立つ」と指摘すると、金総書記は「それは同意する」と述べたという。
 また、金総書記は韓国人拉致問題については「志願して北朝鮮側に渡り、我々も歓迎儀式をやって受け入れた」と主張し、韓国人拉致被害者はいないとの従来の立場を繰り返した。
 文大使は南北首脳会談に同席していないが、同席者から聞いた話として語った。(毎日新聞10.9)

 10月12日 −韓国の李在禎統一相は11日、今月3日に平壌でおこなわれた南北首脳会談で日朝関係正常化が議題となった際、日本人拉致問題については北朝鮮の金正日総書記から「具体的な言及はなかった」と述べた。ソウルでの韓国報道機関幹部との討論会で明らかにした。盧武鉉韓国大統領の訪朝に同行した文正仁延世大教授は8日、金総書記が「日本人拉致被害者はもういない」と発言したと述べていた。李統一相は首脳会談にすべて同席している。
 李統一相によれば、盧大統領は会談で、「日朝関係正常化は朝鮮半島と北東アジアの平和にも、6か国協議の進展にも非常に重要だ。そのため日朝関係をしっかり改善しなければならない」と強調。これに対し金総書記は、福田政権の政策や立場を見守る考えを明らかにしたものの、拉致問題については具体的な言及はなかったという。(読売新聞10.12)

 −韓国の虚武鑑大統領は11日、韓国記者団との懇談会を開き、北朝鮮の金正日総書記が南北首脳会談で「核兵器を(ずっと)持つ意思はない。(朝鮮半島の非核化は、故金日成主席の)遺訓だ」と語ったことを明らかにした。
 盧大統領によると、金総書記は6者協議について「必ず成功させる。誠実に取り組んでいる。米国の態度も肯定的に評価している。今回も米国は誠意を見せたようだ」と述べた。また、盧大統領が「非核化すれば朝鮮戦争を終結できる」とするブッシュ米大統領の考えを伝えたところ、「終戦宣言には私も関心がある。一度進めてみよう」と語ったという。(朝日新聞10.12)

 10月20日 −韓国の盧武鉉大統領は19日、朝日新聞など一部外国メディアと会見した。盧大統領は、先の南北首脳会談で北朝鮮の金正日総書記が「朝日関係の改善が必要だ。福田政権の対話の意思を評価、期待する」と述べ、日朝対話に臨む姿勢を明確にしたことを明らかにした。ただ、日本人拉致問題では進展につながるような具体的な言葉はなかったとの認識を示した。
 盧大統額によると、首脳会談で「日朝関係の改善には日本人拉致問題が解決されなければならないが、その解決のために日本は対話をする意思がある」とする福田首相のメッセージを伝えると、金総書記も対話の意思を明らかにしたという。
 首脳会談前、韓国政府は日本側に拉致問題について言及する考えを伝えていた。盧大統領は会見で「(日朝)双方とも関係改善、対話の意思は持っているが、(日本人)拉致問題に対する基本姿勢には特段の変化はなかったとの印象を受けた」と語った。
 首脳会談では、北朝鮮の核問題に対する論議が不十分だったとの指摘が韓国国内でも出ている。盧大統領は「6者協議が軌道に乗ったうえ、金総書記が(北朝鮮首席代表の)金桂寛外務次官を呼んで(原子炉の年内無能力化などを盛り込んだ合意を)説明させたので改めて話し合う理由がなかった」と述べた。
 首脳会談での宣言に朝鮮戦争終結のための「3者または4者」会談が盛られたことについて盧大統領は「(3者でも)韓国が当事者であることには疑問の余地がない」と明言した。
 また、将来の統一のあり方に関連して大統領は「北は崩壊しないだろう。だから(韓国による)吸収統一はない」と述べ、東西ドイツ統一のように、韓国が多額の費用負担を迫られるとする見方に反論した。(朝日新聞10.20)
  出典:「月間論調」2007年10月号

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