2016年 朝鮮半島核問題の主な動き

5月の主な動き
−※は報道日、表記は報道のまま−

 1日 −聯合ニュースは、北朝鮮が4月23日に日本海で試験発射し「成功した」と主張していた潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、空中爆発していたことが判明したと報じた。韓国政府筋の話としている。このミサイルは約30キロしか飛ばなかった。
 固体燃料を使い、水面上でエンジンに点火、上昇する段階までは成功したと韓国は分析している。
 聯合ニュースによると、上昇後、1段目と2段目の分離前に爆発。北朝鮮が分析目的で遠方に配置していた観測船の上空まで到達しなかった。
 北朝鮮メディアは金正恩第1書記が立ち会った発射が「成功した」と主張している。
 北朝鮮が3月に2発発射した中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程約1300キロ)のうち1発が空中爆発。4月には新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」(同2500〜4000キロ)を3発発射したがすべて失敗し、うち2発も空中爆発した。中距離以上の射程のミサイルを安定して飛ばす技術が確立されていないとの見方も出ている。(共同)

 2日 −イランのロウハニ大統領は、首都テヘランで韓国の朴槿恵大統領と会談した。ロウハニ師は会談後の共同記者会見で、「朝鮮半島で核兵器のない世界を望む」などと述べ、北朝鮮の核兵器開発に反対の立場を示した。イランは北朝鮮と核やミサイルの開発で協力関係にあるとされており、名指しは避けたものの、首脳による否定的意見の表明は異例だ。
 ロウハニ師は会見で「朝鮮半島の平和と安定を望む。イランは原則的に、あらゆる大量破壊兵器の製造に反対だ。我々が望むのは、大量破壊兵器のない世界、特に朝鮮半島や中東地域で核兵器のない世界だ」と述べた。
 地元メディアによると、朴大統領は会談で、北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイル発射に対する国連安保理制裁の履行で、イランに協力を要請した。
 核やミサイルの開発分野での北朝鮮との協力をイランは否定する。しかし、ロウハニ師は2013年8月、自身の大統領就任式典のためイランを訪問した北朝鮮高官に、「私の在任中、長年の良好関係が発展するだろう」とも話していた。
 韓国大統領のイラン訪問は、両国が国交を樹立(1962年)してから初めて。昨年7月のイラン核合意と制裁解除を受けて実現した。朴氏は韓国企業幹部ら約230人を同行させるなど、経済関係の強化も図りたい考え。(毎日新聞5.3)

 6日 −北朝鮮・平壌で、第7回朝鮮労働党大会が開会した。金正恩第1書記は冒頭「歴史的な開会を迎えた」と演説。1月の「水爆実験」と2月の事実上の長距離弾道ミサイル発射で「国力を最上の境地で輝かせた」と述べ、核・ミサイル開発の成果を「実績」として打ち出した。党大会開催は故金日成主席時代の1980年以来、36年ぶり。権力継承を名実ともに終えて4年がたった金第1書記の権力基盤の確立を内外に宣伝する狙いがありそうだ。
 朝鮮中央テレビは6日夜、約15分の開会演説を放送した。(共同)

 8日 −平壌で開かれている北朝鮮の第7回朝鮮労働党大会は8日、3日目の日程に入った。党規約改正や金正恩第1書記の「党最高位」推戴などの議題に進むとみられる。一方、国営の朝鮮中央通信は8日、金第1書記が6、7両日に読み上げた活動総括報告の内容を公開。朝鮮中央テレビは8日午後「特別重大放送」として読み上げの模様を放映した。
 北朝鮮では、金第1書記の祖父、故金日成国家主席は「永遠の国家主席」、父の故金正日総書記は「永遠の総書記」に位置付けられてきた。今回、金第1書記が「主席」や「総書記」に推戴される可能性は低く、党規約改正で「党中央委員長」を復活させて就任するとの観測が出ている。
 一方、活動報告で金第1書記は自国を「責任ある核保有国」と表現したうえ「敵対勢力が核で我々の自主権を侵害しない限り、先に核兵器を使用せず、核拡散防止義務を誠実に履行して世界の非核化実現のため努力する」と強調した。
 また、南北関係について「統一の実現は、党の最も重大で切迫した課題だ」とし「南朝鮮(韓国)当局は同族対決観念を捨て、相手に対する態度から正すべきだ」と指摘した。日本に対しては「朝鮮半島に対する再侵略野望を捨て、我が民族に対して働いた過去の罪悪を反省して謝罪すべきであり、統一を妨害してはならない」との立場を示した。
 自身が推進する核開発と経済建設の「並進路線」は「一時的な対応策ではなく、恒久的に堅持すべき戦略的路線」と規定。経済面では「段階別の戦略を科学的・現実的に立て、正確に執行すべきだ」と述べ、2020年までの「国家経済発展5カ年戦略」を遂行するよう求めた。(毎日新聞5.9)

 12日 ※北朝鮮が今年2月に発射した事実上の長距離弾道ミサイルの2段目の推進力は、前回2012年に発射されたミサイルと比べて1〜1.5倍程度にとどまることが、日置幸介・北海道大教授(測地学)らの研究で分かった。人工衛星を使ったGNSS(全地球航法衛星システム)のデータを解析した。韓国国防省は既に、前回と今回のミサイルの性能などは「ほぼ同一」と発表しているが、日置教授らの分析でもこれが裏付けられた。
 研究成果は、千葉で22〜26日に開催される日本地球惑星科学連合の大会で発表される。
 日置教授らは、エンジンの排気に含まれる水蒸気が、大気の上層にある電離層の電子を消失させることに着目。前回と今回の電子の減少量を比較した。(毎日新聞夕刊5.12)

 23日 −北朝鮮の金哲虎・駐エチオピア大使(前外務省アジア局日本担当副局長)は、滞在先の北京で時事通信のインタビューに応じた。金大使は米大統領選で共和党の指名獲得を確実にしたドナルド・トランプ氏が、大統領に就任した場合の米朝首脳会談開催の可能性に言及したことを受け、「選挙で人気を得るための見せかけの言葉・演技にすぎない。意味あるものと受け入れていない」と一蹴。一方で「制裁を強化しているオバマ政権とは真摯に話し合える状況にない」として米次期政権の動向を注視する考えを示した。
 金大使はオバマ政権が「戦略的忍耐」を主張し、米韓演習など軍事的圧力を加えたことが、「結果的にわが国を核武装の道へと推し進めた」と訴え、米国の政策の失敗を強調。「米国は核強国となったわが国の戦略的立場を直視し、時代錯誤的な敵対視政策を撤回しなければならない」と訴え、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換し、在韓米軍を撤収させるよう要求した。
 金大使は対日関係に関し、日本が国連安保理の経済制裁とは別に独自の制裁を発動したことが、日本人拉致問題などの再調査を約束した2014年5月のストックホルム合意を「覆し、破棄を宣言したのと同じた」と改めて批判。拉致問題などに絡み日本が人権問題で圧力を強めていると非難した上で、「現状では交渉再開は難しく、関係改善には相当な時間がかかる」との見通しを示した。
 金大使は外務省で長年対日外交に携わり、日本課長、アジア局副局長などを歴任後、14年12月から駐エチオピア大使を務めている。北朝鮮当局は5月上旬の党大会を受けて、各国に駐在する大使を平壌に集めて会議を開催。金大使は帰任途中の北京でインタビューに応じた。(時事)

 25日 −安倍晋三首相は25日夜のオバマ米大統領との会談で、オバマ氏が被爆地・広島を訪問するのを踏まえ、オバマ氏の提唱する「核兵器なき世界」に向けて連携していくことを申し合わせた。
 北朝鮮の核開発問題をめぐっては、朝鮮労働党の金正恩委員長が今月初めの党大会で「核保有国」を宣言したことに関し「北朝鮮の核保有の既成事実化は容認できない」との認識で一致した。
 そのうえで北朝鮮の非核化に向け、主要7カ国(G7)が明確なメッセージを打ち出すことが必要だと確認。日米韓3カ国の協力を進めていくことも申し合わせた。首相は日本人拉致問題で引き続き協力を求めた。(日本経済新聞夕刊5.26)

 27日 −欧州連合(EU)は、北朝鮮が今年に入って核実験や弾道ミサイル発射を強行したことを受け、同国への独自制裁を強化すると発表した。貿易、金融、投資、運輸の4分野が対象で、「北朝鮮の核や大量破壊兵器、弾道ミサイル開発の抑止を狙う」としている。28日の官報に掲載し、発動する。
 具体的には、北朝鮮からの石油製品やぜいたく品の輸入を禁止し、一部を除き北朝鮮との資金のやりとりも禁じた。また、EU域内の個人や企業が北朝鮮の鉱業や化学産業に投資することを禁じ、域内での北朝鮮の航空機による離着陸禁止、同国所有・運航の船舶の入港禁止も盛り込んだ。
 EUは、核兵器や大量破壊兵器開発などに関わっているとされる北朝鮮の軍高官ら18人と1団体を資産凍結の対象に追加する制裁強化も19日に発表している。(読売新聞夕刊5.28)

 28日 −北朝鮮外務省の報道官は、オバマ米大統領が主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で訪日中に北朝鮮の核開発を非難したことについて「わが国を中傷した」と反発、「自衛的核武力を質量ともに一層強化していく」と改めて表明した。朝鮮中央通信が29日までに伝えた。
 報道官は「米国が核を振りかざし対(北)朝鮮敵視政策に執着しながら、我々の核放棄を夢見るのは妄想にすぎない」と主張。「米国が世界の非核化実現に関心があるなら、自ら率先して核を放棄し、他国に対する核による威嚇をやめる模範を示すべきだ」と述べた。(共同)

 30日 −北朝鮮外務省の報道官は、欧州連合(EU)が北朝鮮に対する独自制裁を強化したことについて「わが国を圧殺しようとする米国の敵視政策に露骨に便乗している」と非難した。朝鮮中央通信が伝えた。
 報道官は、核実験や「人工衛星打ち上げ」については、国際法で規制されていないと主張した。(共同)

 31日 −韓国軍は31日、北朝鮮軍が同日午前5時20分頃、東部・元山からミサイル1発の発射を試みたが、失敗したとみられると発表した。中距離弾道ミサイル「ムスダン」と推定され、聯合ニュースは移動式発射台の上で爆発したと報じた。ムスダンは4月15日の初発射以来、4回連続の失敗となった。 韓国軍は追加発射を警戒している。
 北朝鮮は、短距離弾道ミサイル「スカッド」をベースにしたノドンやテポドンは発射実験を繰り返して改良を重ねたが、ムスダンはロシア製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)をベースとした別系統だ。韓国科学技術政策研究院の李春根先任研究員は「生産から10年近くたち、エンジンなど主要部品が劣化したが物資不足のため整備ができず、発射の振動で亀裂が生じて燃料が漏れたか、制御不能になったのではないか」と分析した。(読売新聞6.1)

 −米政府は、北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射を強く非難した。ラッセル国務次官補は記者会見で、6月6〜7日に北京で行う閣僚級の「米中戦略・経済対話」で北朝鮮核問題を取り上げ、中国とともに北朝鮮への圧力を強化する考えを示した。
 米中対話にはケリ一国務長官や楊潔篪国務委員らが出席する。ラッセル次官補は北朝鮮への対応で中国は協力的になっているとの認識を示し、朝鮮半島非核化に向けた取り組みを「米中対話の場を活用して、加速させたい」と述べた。
 その上で、4度目の核実験を受けた国連安全保障理事会の制裁決議などに基づく「北朝鮮への圧力を確実にする方法」を中国側と話し合いたいと強調した。
 アーネスト大統領報道官は31日の記者会見で北朝鮮のミサイル発射を「強く非難する」とし、「北朝鮮が地域の緊張を高める行為を自制するよう求める」と述べた。
 国防総省も31日の声明でミサイル発射は「国連安全保障理事会決議に違反する」と非難した。(共同)

 −訪中した北朝鮮の李洙墉・朝鮮労働党副委員長は5月31日、中国共産党の宋濤中央対外連絡部長と会談して朝鮮労働党大会の結果を説明した際、金正恩党委員長が核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を恒久的に堅持する原則的立場を宣言したことを強調した。朝鮮中央通信が1日報じた。
 李氏の訪中は、冷え込んだ中朝関係の修復を模索する動きとみられているが、核開発を続ける方針を中国側に直接表明したことで、非核化を求める中国との隔たりが改めて浮き彫りになった。
 中央対外連絡部の発表には、核問題に関する発言はなかった。同通信によると、宋氏は「(北朝鮮が)自らの実情に合った発展の道へ進むことを支持する」と応じた。核開発についてどのように言及したかは伝えられていない。(共同).

 −米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北朝鮮が寧辺の再処理施設で核兵器の原料となるプルトニウムを抽出する作業を始めたか、準備に入ったことを改めて示す証拠が衛星写真で確認されたと発表した。
 衛星写真は5月上旬の朝鮮労働党大会後に撮影されており、指導部の意向を受けて核開発が続いているとみられる。
 同サイトによると、再処理施設から煙が出ているのが5月12日と22日の衛星写真に写っていた。煙は2月と3月にも確認されていた。
 また、5月13〜22日に容器を積んだ2台の貨車が敷地内に止まっているのも確認された。容器は化学物質を運んだり、廃棄物を運び出したりするために使われ、北朝鮮がプルトニウムを抽出していた2000年代前半にも再処理施設で確認されたことがある。(共同)

 

inserted by FC2 system