2016年 朝鮮半島核問題の主な動き

6月の主な動き
−※は報道日、表記は報道のまま−

 1日 −米財務省は、北朝鮮による資金洗浄を防ぐため、金融制裁を強化すると発表した。米政府はすでに米金融機関と北朝鮮の金融機関との取引を禁じているが、第三国にある口座を経由した取引を禁止するなどの追加措置を義務づける。北朝鮮を国際金融システムから孤立させ、核・ミサイル開発を妨げる狙いだ。
 米は愛国者法に基づき、北朝鮮を資金洗浄の「主要な懸念先」に1日付で指定した。北朝鮮は核開発や弾道ミサイル実験などに向けた外貨調達で、第三国の口座を利用している疑いが濃い。
 財務省のズービン次官代行(テロ・金融犯罪担当)は1日の声明で「米国と国連安全保障理事会、世界の同盟国は、北朝鮮が世界の金融システムに重大な脅威を及ぼしていることを注視している」と指摘した。
 そのうえで「すべての政府と金融当局が新しい国連安保理決議に基づき、米国と同様の措置を講じるよう期待する」として、国際社会が協調して対応するよう呼びかけた。(日本経済新聞6.2)

 −国連安全保障理事会は、北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイルを5月31日に再び発射したことを非難する報道声明を発表した。ロシアの反発で非難声明を出せなかった前回4月28日の発射を含めて「強く非難する」と明記した。度重なる北朝鮮の挑発行為にロシアも態度を変えたとみられ、合意に至った。
 報道声明は法的な拘束力はないが、原則、全ての理事国の同意が必要となる。声明は米国が主導して文案を作成した。
 今回の声明では、北朝鮮によるミサイル発射は過去5回の安保理決議に対する「深刻な違反」と指摘。市民生活が欠乏するなかで「資源を弾道ミサイルに振り向けることはとても遺憾だ」と、北朝鮮に自制を求めた。
 前回、北朝鮮がミサイルを発射した際は、ロシアが米韓を念頭に朝鮮半島での軍事演習を控えるべきだとする修正点を出したため協議が難航、米国が提案した声明案は宙に浮いていた。ただ、北朝鮮がその後再びミサイル発射を試みたことでロシアも態度を軟化させたとみられる。
 安保理の議長国は月替わり。5月はエジプトで、報道声明の計画はないとしていたが、6月にフランスに代わった。(日本経済新聞夕刊6.2)

 2日 −朝鮮中央通信は、中国を訪問した北朝鮮の李洙墉・朝鮮労働党副委員長(党国際部長)と習近平総書記(国家主席)が1日に行った会談の内容を伝えた。李氏は5月上旬に開いた党大会に関し、「わが党が堅持してきた軍事優先革命路線、新たな並進路線は少しも変わりがないことを示した」と述べたとし、核開発と経済建設の「並進路線」堅持を強調したことを伝えた。
 中国国営新華社通信など中国メディアは1日に会談の内容を伝えていたが、並進路線については触れていなかった。一方、新華社の報道では、習氏が朝鮮半島情勢について「関係国が冷静さと自制を保ち、対話を強化して平和と安定を守るよう望む」と述べ、軍事挑発の自制を求めたことが紹介されていたが、朝鮮中央通信はこの点について伝えていない。(東京新聞夕刊6.2)

 −中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で、米財務省が発表した北朝鮮に対する金融制裁強化について「緊張を高めるいかなる行動も取ってはならない」と述べ、批判した。
 独自制裁に対する中国の立場は一貫しているとした上で「一つの国が自国の法律に基づいて他国に制裁を加えることに反対する」と主張。国連安全保障理事会による対北朝鮮制裁決議の履行によって北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止すべきだとの考えを重ねて強調した。(共同)

 4日 −カーター米国防長官と韓民求・韓国国防相は、訪問先のシンガポールで会談した。両国は北朝鮮による核・弾道ミサイル開発を強く非難した。韓国側の強い希望で、南シナ海の領有権問題など、中国を刺激する協議は避けた。
 カーター氏は冒頭で「米韓同盟は地域の安全保障の要であり続ける」と強調。北朝鮮に非核化を求める一方、核兵器が搭載できる弾道ミサイルに対抗した防衛政策の推進で一致した。
 米国は核の抑止力を韓国に今後も提供する考えを強調o韓国も米軍のB52爆撃機や原子力潜水艦の派遣に感謝を示し、韓国内の一部にある核武装論の抑え込みを図った。米韓同盟の再評価は、米大統領選で共和党の指名が確実となったトランプ氏が在韓米軍の撤退を示唆したことを意識したものとみられる。
 一方、韓国は、北朝鮮の核問題に強い影響力を持つ中国に配慮。中国が反発している地対空の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の在韓米軍への配備問題については議題にしなかった模様だ。(朝日新聞夕刊6.4)

 −中谷元防衛相と米国のカーター国防長官、韓国の韓民求国防相が、シンガポールで会談した。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し、日米韓3カ国が緊密に連携していくことを確認。北朝鮮の弾道ミサイルを想定した初の共同訓練や、防衛当局間の情報共有などの協力強化で一致した。
 中谷氏は会談の冒頭、「北朝鮮の挑発を抑止するには、3カ国が結束することが大事だ。協力を深化、発展させるようにしたい」と述べた。
 3カ国は共同声明も発表。北朝鮮の核・ミサイル開発を非難するとともに、速やかな開発中止を求めた。北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、探知・追跡演習を今月末に米ハワイ沖で行うことなどを通じ、防衛協力を促進するとした。(時事)

 6日 −国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は記者会見で、北朝鮮が寧辺にある再処理施設を再稼働した兆候があると明らかにした。施設には核兵器の原料となるプルトニウムを抽出できる黒鉛減速炉があり、天野氏は「(施設付近から)車や煙の動き、排水などの兆候がある」と述べた。衛星写真による分析の結果という。
 同日の理事会では、北朝鮮が3月の国連安全保障理事会で採択した決議に従わないことについて「非常に遺憾」と批判した。(毎日新聞夕刊6.7)

 7日 −ロイター通信は、米国務省高官の話として、北朝鮮が寧辺の再処理施設で核兵器の原料になるプルトニウムの生産を再開したと報じた。プルトニウムの抽出量などは不明。
 再処理施設を再稼働した兆候があるとの見方はIAEAなどから出ていたが、米高官が認めたことで確実性が高まった。国際社会の反発を無視し、北朝鮮が核開発を着実に進めている実態を示した。
 この高官は「原子炉の使用済み燃料を冷却した後、過去の核実験で使ったプルトニウムを抽出した再処理施設に移している」と述べた。(共同)

 13日 −スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、今年1月時点の核弾頭総数が世界で約1万5400個となり、昨年から約450個減ったとの推計を発表した。全体の減少傾向は続いているものの、昨年6〜8個だった北朝鮮は最大10個に増加。米国とロシアによる核兵器近代化にも懸念を示した。
 北朝鮮の保有数は、寧辺の実験用黒鉛減速炉(原子炉)で生産できるプルトニウムの量から推計した。北朝鮮は最近、同炉の使用済み燃料を使ったプルトニウム生産を再開したとみられている。
 ただ、北朝鮮がミサイルに搭載可能なまで核弾頭の小型化に成功したことを示す明確な証拠はないとし、軍事利用できる高濃縮ウラン製造に成功したかも不明とした。
 米露の削減によって総数は減少したものの、両国が核兵器の近代化に巨費を投じていると指摘。特に、オバマ大統領が被爆地広島への歴史的訪問を果たした米国について、政権が進める近代化計画は核兵器の役割を縮小するとのオバマ氏の約束と「著しく対照的だ」と批判した。
 保有数最大はロシアの約7290個。米国(約7000個)、フランス(約300個)、中国(約260個)が続いた。フランス、中国、英国、イスラエルは横ばいで、インドやパキスタンがそれぞれ約10個増加した。(共同)

 14日 −米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)は、北朝鮮が過去1年半の間に核兵器を4〜6個増やし、現在の保有数が13〜21個に上ると推計した報告書を発表した。ISISは以前、2014年末時点で10〜16個保有しているとの推計を明らかにしていた。増加分を足すと最大で22個となるが、今年1月の核実験で使った1個分を差し引いた。寧辺にある核施設の衛星写真などを使って稼働状況を調べ原料になる高濃縮ウランとプルトニウムの生産量を分析した。(共同)

 −中国商務省、国連安全保障理事会による北朝鮮への制裁決議を受けた禁輸対象品目を拡大した。
 新たに計40品目をまとめ上げ、リストを公告すると同時に輸出禁止の措置を取った。
 4月に禁輸対象としてリストに載せた石炭や鉄鉱石など25品目に加え、拡大されたのは、核兵器や弾道ミサイル開発に転用できるリング型磁石など12品目と、化学兵器製造に使われる塩化アルミニウムなど14種の化学物質など。(東京新聞6.17)

 17日 −鳥取県は、日本海に面した同県湯梨浜町の泊漁港海岸の砂浜で16日午後2時ごろ、パトロール中の県職員が不審な漂着物を発見したと発表した。北朝鮮が発射したミサイルの残骸の可能性があり、政府は防衛省の調査チームを近く現地に派遣し、詳しい分析を進める方針だ。
 県によると、漂着物は長さ約1・8メートル、幅約1・2メートルの金属製。筒が縦半分に割れたような形で、先端は円すい状だった。青い洋数字で「1」「2」と刻印されていた。
 北朝鮮が2月7日に発射した事実上の長距離弾道ミサイルの保護カバー「フェアリング」の残骸とみられる物体として、韓国国防省が公表した写真と形状がよく似ている。(東京新聞6.18)

 22日 −韓国軍合同参謀本部によると、北朝鮮は22日午前、日本海側の元山付近から中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイル2発を発射した。ムスダン発射は4月以来、計6回となった。22日の1発目は失敗したもよう。2発目の成否は確認中だが、約400キロとこれまでで最も長い距離を飛行しており、発射技術が向上した可能性がある。相次ぐ挑発行為に国際社会の反発は必至で、日韓など関係国は追加挑発の可能性に警戒を強めている。
 ミサイルは1発目が午前5時58分、2発目が同8時5分にそれぞれ発射された。1発目は150〜160キロ飛行した後、空中で爆発し、複数の破片が落下した。一方で2発目は約400キロ飛行しており、米韓両軍が分析作業を急いでいる。日本の防衛省によると、自衛隊のレーダーの分析でミサイルの高度は1000キロメートルを超えたとしている。過去4回は発射後すぐに爆発した。
 ムスダンは射程3千キロ以上で、米領グアムに届く飛行距離を持つ。北朝鮮は自らの体制維持に向けて米国との対話の実現を最優先課題と位置づけている。ムスダンとみられるミサイルの発射の背景には米国にとっての直接の脅威をつくり出し、対話を有利に導きたい考えがあるとみられる。(日本経済新聞夕刊6.22)

 −北京で、北朝鮮の核問題を巡る6か国協議参加国の外交当局者、専門家による国際会議「北東アジア協力対話(NEACD)」が本格的に始まった。23日までの予定。中国の武大偉・朝鮮半島事務特別代表、米国のソン・キム政府特別代表(北朝鮮担当)、北朝鮮の崔善姫・外務省米州局副局長、金杉憲治・外務省アジア大洋州局長らが参加し、北朝鮮の核・ミサイル開発問題などについて議論した。
 日米や韓国の代表は、22日の北朝鮮の弾道ミサイル発射に強く抗議した。
 年1回の同対話への北朝鮮当局者の参加は、2012年以来。中国は習近平国家主席が訪中した北朝鮮の李洙墉・朝鮮労働党副委員長と会談し、核問題の対話を通じた解決を強調。中朝関係改善の機運が作られる中で、北朝鮮は対話参加を決断せざるを得なかったとみられる。
 ただ、北朝鮮の協議当日の発射は、核・ミサイル開発で他国の干渉は受け入れないとの意思表示とも言える。聯合ニュースによると、崔氏は会合で「世界の非核化前に、核放棄は不可能だ。6か国協議は死んだ」と述べ、核開発を続行する意思を強調した。(読売新聞6.23)

 23日 −北朝鮮の国営メディアは23日、「中長距離戦略弾道ロケット『火星(ファソン)10』の試験発射を成功裏に行った」と報じた。22日の新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程2500−4000キロ)の発射を指すとみられる。
 ラヂオプレス(RP)が朝鮮中央放送の内容として伝えたところによると、現地で発射を指導した金正恩朝鮮労働党委員長は「太平洋の米軍を全面的かつ現実的に攻撃できる確実な能力を持つことになった」と強調。「核先制攻撃能力を持続的に強化し、多様な戦略兵器を研究、開発しなければならない」と指示した。
 朝鮮中央放送は「火星10」について、「最大高度1413・6キロまで上昇、飛行し、400キロ先の目標水域に正確に着弾した」と主張。「周辺国の安全に少しの影響も与えなかった」として、日本上空を通過しないよう意図的に飛距離を抑えた可能性を示した。
 1400キロ超の高度が事実であれば4000キロ以上の最大射程が見込まれ、北朝鮮から約3400キロ離れた米グアムを射程に収めることになる。
 同放送はまた、大気圏再突入時の弾頭部の「耐熱性と飛行安全性も検証された」と指摘した。(産経新聞6.24)

 −北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射を受け、国連安全保障理事会は、北朝鮮を「強く非難する」との報道声明を出した。安保理は、米国、日本、韓国の要請を受けて、ニューヨークの国連本部で22日に緊急会合を開き、文案を検討していた。
 発表された報道声明は前回の発射を受けて1日に発表された声明とほぼ同じ内容。北朝鮮のミサイル発射は、「過去5回の安保理決議に違反しており、核兵器の運搬システムの開発に寄与し、緊張を高める」とし、これまで何度も出された報道声明を、北朝鮮が無視して発射を繰り返していることに深刻な懸念を示し。
 安保理はまた、国連加盟国に対し3月の安保理決議で決めた北朝鮮への追加制裁を完全に実施する努力を倍増させ、制裁を効果的に実行するために取った具体的措置をただちに報告するよう訴えた。(毎日新聞夕刊6.24)

 24日 −北朝鮮の外務省報道官は、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難した国連安全保障理事会の報道声明について「公正性が完全に欠如している」として「全面的に排撃する」と表明した。朝鮮中央通信が25日までに伝えた。
 報道官は「米国をはじめとする敵対勢力の恒常的な脅威から祖国と人民の安全を守るための自衛的措置だ」と発射を正当化。過去の安保理決議に対する「重大な違反」に当たるとの指摘に対し「決議は主権国家の自主権を乱暴に侵害する強権の産物だ」と反論した。(共同)

 −朝鮮中央通信によると、北朝鮮の最高人民会議(国会)常任委員会は、ミサイルを運用する戦略軍が創設された7月3日を「戦略章節」に制定するとの政令を発表した。
 北朝鮮は22日に発射した中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイルの発射が「成功した」と主張しており、今後も核ミサイルの開発を進める姿勢を示すと共に、29日に開かれる最高人民会議を前に、国威発揚を図る狙いがあるとみられる。
 政令は金正恩朝鮮労働党委員長が戦略軍を「小型・精密化した核攻撃手段を備えた強力な軍に発展させた」と強調した。政令によると、正恩氏の父の金正日総書記が1999年7月3日、前身の戦略ロケット軍を創設した。(読売新聞6.27)

 28日 −米軍は28日、日米韓3カ国による弾道ミサイルの探知・追跡演習を米ハワイ沖で実施したと明らかにした。韓国海軍が日本の海上自衛隊や米海軍と合同でミサイル追跡演習を行ったのは初めて。北朝鮮の弾道ミサイルを想定した模擬標的を用い、情報共有体制を確認した。
 韓国は日本との軍事協力に積極的でなかったが、北朝鮮の脅威が増す中で、日米との連携を重視する姿勢に転換。日米韓は2014年12月、北朝鮮の核・ミサイル関連の情報を共有する覚書を締結し、今月シンガポールで開かれた3カ国国防相会談で演習実施の方針を確認していた。
 演習には、米海軍、海上自衛隊、韓国海軍のイージス駆逐艦計4隻と、韓国海軍のヘリコプター搭載駆逐艦1隻が参加。自衛隊からは「ちょうかい」が加わった。(時事)

 29日 ※米韓国防当局は、北朝鮮が22日に発射した2発の新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられる飛翔(ひしょう)体のうち、2発目が大気圏外から再突入したことを確認した。
 聯合ニュースによると、米国防総省のデービス報道部長は27日、2発目について「宇宙空間に飛び出した後に戻ってきて、約400キロ飛行した」と記者団に説明。韓国国防省報道官も28日、米国の分析に対し「われわれのこれまでの説明と同じだ」と認めた。
 弾頭を宇宙空間に打ち上げた後、大気圏内に再突入し着弾させる技術は、米本土を射程に入れた大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発につながる。北朝鮮の朝鮮中央通信は、ミサイルが高度1413キロに達した後、目標水域に正確に着弾し、再突入区間での耐熱性や安定性も検証されたと報じている。
 ただICBMは再突入時、ムスダンよりも高速で6000〜7000度の高温に耐える必要がある。韓国国防省報道官は今回の再突入速度がマッハ15〜16で、ICBMのマッハ24に満たないため「ICBMの試験ではない」との見方も示した。(東京新聞6.29)

 

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