2016年 朝鮮半島核問題の主な動き

7月の主な動き
−※は報道日、表記は報道のまま−

 1日 −韓国の情報機関、国家情報院は、北朝鮮への国連安全保障理事会の制裁などによって、北朝鮮の輸出が主力商品の石炭で約40%、武器が約88%減少しているとの分析を明らかにした。非公開の韓国国会情報委員会への報告内容として同委所属議員らが明らかにしたが、比較の対象期間など詳細は不明。(共同)

 6日 ※北朝鮮の首都・平壌など複数の都市で、5月上旬の朝鮮労働党大会開催直前から、電力事情が好転していることが、複数の北朝鮮消息筋の話で分かった。国連安全保障理事会が3月に採択した制裁決議で禁輸対象とされた石炭の輸出が困難となり、国内の火力発電に転用しているため電力供給量が増えている、と消息筋は話している。
 北朝鮮では4月ごろまで深刻な電力難が恒常化していた。平壌市内の電力供給は、平均すると一日当たり数時間程度で、市中心部でさえ頻繁に停電していた。中国から輸入された発電用太陽光パネルを屋外に設置し、電力不足を補う一般家庭が増えていた。
 消息筋によると、平壌市内では党大会直前から電力供給がほぼ正常化し、停電する時間は一週間に2、3時間程度に減少。平壌の消息筋は「電力供給率は90%以上」と伝える。
 また、中国と国境を接する北朝鮮北西部・平安北道新義州でも以前に比べて電力事情が良くなり、「一日当たり平均20時間程度は電力が供給されている」と新義州の消息筋は話す。
 石炭は北朝鮮の主要輸出品目でほぼ全量が中国向け。4月の輸出総額は前年同月比で約4割も減った。安保理の制裁決議や中国経済の鈍化が原因。北朝鮮経済に詳しい消息筋は「輸出できなくなった石炭を国内の発電所に回し、発電所稼働率が上がっている」と指摘する。(東京新聞7.6)

 7日 −北朝鮮外務省は、米財務省が人権侵害を理由に金正恩朝鮮労働党委員長を制裁対象に指定したことについて撤回を要求し、応じなければ米朝間の全ての外交ルートを「即時遮断する」と警告する声明を発表した。朝鮮中央通信が伝えた。
 声明は、制裁指定は北朝鮮の「最高尊厳」に挑戦するものだとし「公然たる宣戦布告だ」と強く反発。撤回しなければ、米朝間の問題は「わが国の戦時法に基づき処理される」とし、「米国の敵対行為を粉砕するための超強硬対応措置を講じる」と強調した。(共同)

 8日 −米韓両政府は、共同声明を出し、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため、在韓米軍への地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備を正式決定したと発表した。候補地選定に関しては最終段階にあり、「迅速に配備できるよう緊密に協議している」と強調した。遅くとも来年末には実戦運用を開始する方針。
 中国はTHAADに対して、「安全保障上、懸念がある」と強く反対している。配備決定を受けて反発を一層強めており、米韓との関係が冷却化する可能性もある。
 米韓は今年3月、配備に向けた公式協議を開始した。北朝鮮が4月以降、中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられる発射実験を繰り返し、一定の性能を示したため、配備に向けた協議を急いだとみられる。
 米韓の共同声明は「北朝鮮の核実験や、最近の中距離弾道ミサイル発射を含む多数のミサイル試射は、韓国やアジア太平洋地域の安保、安全に対する重大な脅威だ」と非難した。また、中国の反発を考慮し、「(THAADは)第三国を念頭に置いていない」と強調した。(時事)

 9日 −韓国軍合同参謀本部は9日、北朝鮮が同日午前11時半ごろに日本海から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定されるミサイル1発を発射したと明らかにした。北朝鮮はSLBMを開発中で4月23日にも1発を発射した。金正恩委員長に対する制裁や、在韓米軍への迎撃システム配備決定に反発した可能性もある。
 発射地点は潜水艦の基地がある北朝鮮中部、咸鏡南道・新浦付近。前回と同様の海域だ。韓国軍は「初期飛行に失敗した」と分析している。
 4月の飛行距離は約30キロとSLBMの最低射程300キロに大きく及ばなかった。韓国軍は失敗と評価したが、北朝鮮メディアは「水中攻撃作戦実現のための条件を十分に満たした」として実験成功を強調した。北朝鮮は昨年来、発射実験を繰り返しており、韓国国防省も一定の技術的進展はあるとみている。(日本経済新聞夕刊7.9)

 11日 −北朝鮮の朝鮮人民軍は、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「THAAD」の韓国配備決定を受け「重大警告」を発表、配備先が確定され次第、制圧するための「物理的対応措置」を実行すると表明した。朝鮮中央通信が伝えた。配備決定に対する北朝鮮の反応は初めて。
 対応措置の具体的な内容には触れていないが、弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、米韓軍を射程に収めるミサイルの実戦配備などをさらに進める可能性がある。
 重大警告は軍総参謀部砲兵局の名義。(共同)

 −朝鮮中央通信は11日、北朝鮮が10日、ニューヨークの国連駐在代表部を通じて米国に対し、唯一の米朝間の公式接触チャンネルである国連チャンネルを完全に遮断する、との通知文を送ったと伝えた。米財務省が6日に人権侵害の責任を追及して金正恩朝鮮労働党委員長らを制裁対象に指定したことに対する初の対抗措置。米朝対話は、一層遠ざかることになりそうだ。
 北朝鮮外務省は7日に声明を通じ、制裁措置を直ちに撤回しない場合、「米朝間の全ての外交接触の空間とルートが直ちに遮断されるだろう」と警告していた。
 北朝鮮は通知文で、米国による正恩氏の制裁対象指定を「最高尊厳」を刺激する「史上最悪の犯罪行為」であり、「宣戦布告だ」と非難。米国が制裁を直ちに撤回しなかった以上、「それに対する実際的な行動措置を段階別で講じていくようになる」として、対抗措置を続ける考えを表明した。
 米朝間に提起される全ての問題を「戦時法」によって処理するとし、「抑留された米国人問題も例外ではない」と指摘。北朝鮮国内で拘束中の米国人が不当に扱われる可能性も示唆した。(東京新聞7. 12)

 −米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、7日撮影の商業衛星写真に基づき、北朝鮮北東部豊渓里にある核実験場での活動が活発化しているとの分析を発表した。特に2013年と16年の核実験で使われた坑道周辺で動きがあるという。
 38ノースは、活動が5回目の核実験の準備なのか、施設の維持作業なのかは不明としているが、金正恩朝鮮労働党委員長からの指示があれば「核実験を実施できる状態にしようとしているのは明らかだ」と指摘した。衛星写真には、坑道近くに資材や小型車両が置かれているのが写っていた。何らかの作業が活発に行われていることを示唆しているという。(共同)

 13日 −韓国国防省は、韓国に2017年末までに配備される米軍のTHAADについて、展開する地域が慶尚北道星州郡に決まったと発表した。国防省関係者は同日、ソウルなど首都圏の防衛は地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)の導入などで対応するとした。同省によれば、THAADは高度40〜150キロでの迎撃が可能。6基の発射台と48発のミサイル、Xバンドレーダーなどで構成する1個部隊を展開する。THAADは現在、米本土に4個部隊、グアムに1個部隊がそれぞれあり、米本土の部隊の一つが韓国に展開する見通しだ。(朝日新聞7.14)

 19日 −北朝鮮は午前5時45分ごろから同6時40分ごろにかけて、南西部の黄海北道黄州付近から日本海に向けて弾道ミサイル計3発を発射した。韓国軍合同参謀本部が明らかにした。米韓は北朝鮮の弾道ミサイルに備え、高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の在韓米軍への配備を決めており、これに反発した可能性がある。
 韓国軍合同参謀本部と韓国国防省によると、今回発射されたのは短距離弾道ミサイル「スカッド」か中距離弾道ミサイル「ノドン」と推定される。3発のうち2発は飛行距離が500〜600キロで、残りの1発は分析中という。また米戦略軍は1発がノドンで、2発がスカッドと推定されるとの分析を公表した。(朝日新聞夕刊7.19)

 20日 −朝鮮中央通信は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、米軍の核戦略兵器が展開される韓国の港や空港への先制攻撃を想定した弾道ミサイル発射訓練を視察したと報じた。日時は伝えていないが、19日に行われた中距離「ノドン」や短距離「スカッド」の計3発の弾道ミサイル発射を指すとみられる。
 金氏は核攻撃体制の迅速性や安全性を高め、多様な弾道ミサイルを開発するよう指示。米韓に対抗し、核・ミサイル開発を進める姿勢を改めて示した。
 発射訓練は在韓米軍基地への攻撃を担当する朝鮮人民軍戦略軍の砲兵部隊が実施した。(共同)

 25日 −中国の王毅外相と北朝鮮の李容浩外相は、ラオスの首都ビエンチャンで会談した。中朝は北朝鮮の核開発をめぐり冷え込んだ関係の修復を模索しており、会談で伝統的な友好関係を発展させる方針を確認した。王氏は朝鮮半島の非核化を目指す立場を重ねて伝えた。中朝外相の会談は2014年8月以来、約2年ぶり。
 李氏が5月に外相に就任した後、両者の会談は初めて。北朝鮮の1月の核実験以降、中朝関係の冷却化は深刻になっていた。
 中国外務省によると、王氏は会談で「中国は中朝の友好的な協力を重視している」と強調。核開発に関し「朝鮮半島を非核化して平和と安定を守り、対話を通じて問題を解決するという基本政策に変わりはない」と述べた。李外相は「朝鮮半島情勢について対話を保ちたい」と応じた。(共同)

 26日 −ASEAN関連外相会議出席のためラオス訪問中の北朝鮮の李容浩外相は、記者会見し、5回目の核実験の可能性に関し「全面的に米国の態度にかかっている」と主張した。
 北朝鮮の政府報道官は今月6日の声明で、北朝鮮に非核化を求めるなら、まず韓国からの米軍の撤退を宣言すべきだなどと主張しており、李外相の発言も先に米韓側の行動を求めたものだ。
 一方、米国のケリ一国務長官も26日の記者会見で、北朝鮮が核やミサイルの開発を続けていることについて「重大な結果を伴うということを北朝鮮に理解させる」と警告した。(毎日新聞7.27)

 

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