2016年 朝鮮半島核問題の主な動き

12月の主な動き
−※は報道日、表記は報道のまま−

 1日 −北朝鮮外務省は、国連安全保障理事会が11月30日に採択した北朝鮮制裁決議について「わが国の自衛権を否定した主権侵害行為だ」と非難し、「われわれのより強力な自衛的対応措置を招くだろう」と警告する報道官談話を発表した。朝鮮中央通信が伝えた。
 決議採択後、北朝鮮の公式な反応は初めて。談話は、制裁で北朝鮮の核武装路線は放棄させられないと主張、核開発を続ける方針を改めて強調した。
 9月に実施した5回目の核実験について「米国をはじめとした敵対勢力の核による威嚇と制裁に対する実質的対応措置だ」とし、「安保理には核実験を含む主権国家の自衛権行使を禁止する権限はない」と反発した。(共同)

 2日 −政府は2日午前、国家安全保障会議(NSC)を首相官邸で開き、北朝鮮に対する日本独自の制裁を強化する方針を決めた。北朝鮮による5度目の核実験と相次ぐ弾道ミサイル発射に加え、日本人拉致問題に進展がないことを受けた措置。資産凍結の対象として、新たに中国の企業・個人を対象に含めた。渡航規制の対象を拡大するとともに、北朝鮮に寄港した船舶の入港禁止措置を日本籍船舶にも適用する。
 政府は近く閣議決定などの手続きを経て、強化した制裁を速やかに発動する。国連安全保障理事会の新たな制裁決議採択や、米韓両国の独自制裁と歩調を合わせた。
 新たな独自制裁では、核・ミサイル計画に関連する資産凍結の対象について、従来の43団体・40個人から54団体・58個人に拡大。今回追加した対象の一部には中国企業・個人が含まれており、中国を経由した資金や技術の移転を封じることを狙う。
 また、在日外国人の核・ミサイル技術者の往来規制では、北朝鮮を渡航先とした再入国禁止の対象を拡大。原則禁止としている在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者ら北朝鮮当局職員の再入国についても対象を広げる。
 北朝鮮に寄港した船舶の日本への入港禁止は、これまでは外国籍の船舶を対象としていたが、新たに日本籍の船舶も追加し、全面的に禁止する。(時事)

 −韓国政府は、北朝鮮の黄炳端軍総政治局長や崔竜海朝鮮労働党副委員長ら高官36人と35団体を新たに制裁リストに加えた。韓国内の資産凍結などが科される。北朝鮮が9月に5回目の核実験を強行したことに対する国連安全保障理事会の追加制裁に合わせた独自制裁措置。核やミサイル開発の資金を断つのが狙い。
 今回は外貨獲得のために海外へ労働者を運ぶ高麗航空も対象とした。さらに、1年以内に北朝鮮に寄港したことのある船舶の入港も禁じた。これまでは半年だった。(毎日新聞夕刊12.2)

 −中国外務省の耿爽・副報道局長は記者会見で、北朝鮮に対する日韓両国の独自制裁について「国連安保理の枠組み外で実施する一方的な制裁に反対する。制裁を利用し中国の正当で合法的な利益を損なうことにはさらに反対だ」と述べ、慎重な対応を求めた。
 耿副局長は、北朝鮮情勢に関し「互いに刺激し緊張と対立を激化させるのを避けるべきだ」との考えを強調した。
 日本政府の制裁強化策は、新たに中国の企業・個人を含め資産凍結の対象を拡大するなどしている。(時事)

 −米財務省は、北朝鮮が9月に実施した5回目の核実験を受け、北朝鮮の国営航空会社の高麗航空など23の団体と個人に対して独自制裁を科すことを発表した。核やミサイル開発の資金源となっている労働者派遣や石炭輸出に関わる企業を初めて対象とした。
 米国内の資産が凍結されるほか、米国人との取引が禁じられる。第三国の企業にも対象企業との取引自粛を促したい考えだ。
 今回の制裁は、高麗航空が所有する16機の飛行機なども対象となった。財務省によるとスカッド短距離弾道ミサイルの部品を運搬している疑惑があるという。国際線が中国やロシアなどに就航しているが、制裁によって第三国の企業に同航空機への燃料や機内食を提供することを自粛させ、運航の停止を促したい考えだ。
 海外に北朝鮮の労働者や技術者を派遣していた4社も新たに対象に指定された。個人では、軍需経済を担当する非公開組織の「第2経済委員会」委員長らが対象となった。(朝日新聞夕刊12・3)

 3日 −エジプトの通信大手「オラスコム・テレコム」は、子会社の金融機関「オラバンク」が北朝鮮での事業を中止すると発表した。米国が金融分野での対北朝鮮制裁を強化し、罰則を科される恐れが出てきたためだとしている。北朝鮮側との合弁事業による携帯電話サービスは続ける。
 オラスコム社は2008年に合弁会社「高麗リンク」を通じて、携帯寓話事業を開始し、オラバンクも平壌に進出した。
 携帯寓話の加入件数は300万件以上とされる。(毎日新聞12.6)

 4日 −米財務省は6月に発表した北朝鮮への金融制裁強化の手続きを完了したと発表した。米金融機関は北朝鮮との取引禁止に加え、第三国の金融機関を通じた北朝鮮とのドル取引も禁じられる。核・ミサイル開発の資金調達網を締め付ける狙い。
 ズービン財務次官代行(テロ・金融犯罪担当)は声明で「北朝鮮は国際的な制裁を回避し、核・ミサイル開発の資金を調達しているが、正規の金融システムにそうした資金の場所はない」と強調した。
 財務省は6月、米愛国者法に基づいて北朝鮮を「マネーロンダリング(資金洗浄)の主要懸念先」に指定し、制裁を強化すると発表した。(共同)

 8日 −米軍高官は、北朝鮮が核弾頭の小型化に成功し、弾道ミサイルに搭載する能力を既に備えているとの分析を記者団に明らかにした。宇宙空間から大気圏にミサイルを再突入させる際の技術獲得については懐疑的な見方を示した。
 搭載技術を既に備えているとの見方は専門家の間で出ているが、北朝鮮が敵視する米軍高官が明示的に認めたことで、北朝鮮の核・ミサイル技術の着実な進展を裏付けた。
 高官は「弾頭を運搬手段に搭載できるようになったと考えている。再突入に関しては(北朝鮮が)確信を持っていないのだろう。だからこそ、(実験を通じた)取り組みを続けている」と述べた。(共同)

 9日 −政府は持ち回り閣議で、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対する独自制裁の強化策を決定した。資産凍結の対象として、新たに中国企業・個人を追加。北朝鮮に寄港した船舶の入港禁止措置を日本籍船舶にも適用する。
 新たな制裁では、資産凍結の対象を43団体・40個人から54団体・58個人に拡大した。これまでの経済制裁で「抜け穴」と指摘されてきた第三国企業による取引を遮断する効果を狙う。(時事)

 10日 −中国商務省は国連安全保障理事会の北朝鮮への制裁強化決議を受け、11日から31日まで北朝鮮からの石炭輸入を停止した。同省が10日、ウェブサイトで発表した。中国には決議履行の姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。ただ、来年以降の措置には触れていない。
 11月30日に採択された決議は、北朝鮮の最大の外貨獲得源である石炭輸出の上限を定めた。来年からの輸出量は2015年に比べて約6割減る見通し。
 現在北朝鮮から石炭を輸入しているのは中国のみで、制裁の実効性のカギを握る中国の対応が注目されている。(時事)

 14日 −米政府当局者は、北朝鮮が今月に入り潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射技術に関わる試験を陸上で実施したと明らかにした。米国は北朝鮮が発射技術の確立を目指した動きを加速させているとみて、警戒を強めている。
 当局者によると試験では、潜水艦内部でミサイルのエンジンを噴射することなく、ガスなどの圧力によってミサイルを外部に射出する「コールド・ローンチ」と呼ばれる技術が使われた。海面に浮上せずに海中から発射できるため、探知が難しくなる。北朝鮮はこれまでも同様の実験を実施したことがあるという。
 当局者は今回の試験について「実戦配備する上で必要な技術だ」と指摘。日本や韓国と連携して警戒を強める考えを示した。
 北朝鮮は今年、たびたび弾道ミサイルを発射し、SLBMは4月と7月、8月に発射した。(共同)

 20日 −米韓両政府は、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対処するため、ワシントンで抑止力強化を話し合う協議の初会合を行った。協議の枠組みは10月の米韓外務・防衛閣僚協議(2プラス2)で新設が決まった。
 外務・防衛当局の次官級高官が出席し、米国が同盟国に防衛機能を提供する「拡大抑止」の運用などを協議。米側は「核の傘」やミサイル防衛などを含む軍事力を全面展開して拡大抑止を提供すると強調し、韓国防衛への強い決意をアピールした。
 米韓当局者は、米国が韓国に定期的に戦略兵器を配備し、抑止力強化の追加措置を検討することを確認した。(共同)

 22日 −朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省の条約法規局長は、5度目の核実験を受けた国連安全保障理事会の制裁決議が、朝鮮戦争の休戦協定に違反していると批判する談話を発表した。談話は「制裁決議はかろうじて残っていた休戦協定にある海上封鎖禁止に関する条項まで無くしてしまった」と批判した。(日本経済新聞12.23)

 23日 −北朝鮮の北東部、豊渓里にある核実験場の坑道について、韓国の情報機関、国家情報院は「いつでも追加の核実験が可能な状態を維持している」との分析を示した。李炳浩院長が23日、国会情報委員会で明らかにした。同実験場の別の坑道でも人や車両の活発な動きが確認されているという。
 金正恩朝鮮労働党委員長が12日に朝鮮人民軍の特殊部隊を視察した際、韓国大統領府を「火の海にしてやる」と発言したとも指摘した。今月中旬にSLBMの地上噴射実験を行ったことも確認したという。
 北朝鮮は今年に入って2回の核実験や弾道ミサイル試射を20発以上繰り返したが、10月中旬以降、目立った動きが見られなかった。
 李氏は、朴槿恵大統領の弾劾などを有利な情勢とみて「追加挑発の時期を計っているようだ」と説明した。(産経新聞12.24)

 −北朝鮮の朝鮮労働党の末端組織の一つである「初級党」の幹部が集まる「全党初級党委員長大会」が、平壌で開幕した。金正恩朝鮮労働党委員長は開会の辞で、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」の正当性を強調、国連安全保障理事会の制裁決議を批判した。朝鮮中央通信が24日伝えた。
 同名称の大会が開催されたのは初めて。5月に36年ぶりに開かれた党大会を契機に進められてきた党中心の統治体制整備の一環。
 金氏は、北東アジアや韓国の情勢に言及し「今日の国際情勢は、党が選んだ並進路線がどれほど正当だったかを明確に実証している」と強調。北朝鮮の「戦略的地位」の高まりを恐れる勢力が安保理決議や独自制裁を仕立て上げたと批判し、これは「われわれの勝利に対する最も明白な証明だ」と述べた。(共同)

 30日 ※北朝鮮による弾道ミサイル発射に備え、海上自衛隊と米海軍が今年秋から、日本海での共同警戒監視を始めていたことがわかった。日本政府の破壊措置命令に基づき、24時間の迎撃態勢を維持する海自のイージス艦が、補給などで日本海を離れる際、米イージス艦が代わりに現場に展開し、警戒監視を担っている。日本側の要請によるものだが、自衛隊の実任務を米軍がカバーするのは異例。自衛隊単独での対処が限界に近いことを示しており、ミサイル防衛のあり方を巡る議論にも影響を与えそうだ。
 複数の政府関係者が明らかにした。米軍によるカバーは、稲田防衛相が9月に訪米してカーター国防長官と会談した際に打診し、了解を得た。米側はこれまでに数度、神奈川県の米海軍横須賀基地に所属する弾道ミサイル防衛(BMD)対応型イージス艦を日本海に派遣。1度につき1週間前後、海自に代わってミサイル警戒にあたっている。
 防衛省によると、米海軍横須賀基地には7隻のBMD対応型が配備されている。自衛隊と米軍は平素から緊密に情報共有しているが、米国に日米安全保障条約に基づく対日防衛義務がある「有事」を除けばそれぞれ独自の判断で行動するのが通常だ。
 稲田氏の訪米に先立つ8月、日本政府は破壊措置命令を発令。過去に例のないペースで北朝鮮がミサイル発射を続けていることを踏まえ、この時から初の「常時発令」状態になった。主力となるイージス艦も常時日本海に展開させておく必要が生じ、海自は同月以降、保有するBMD対応型4隻を交互に派遣しているが、「給油や整備の際、どうしても交代の船を出せない『空白』が生じることがある」(防衛省幹部)ため、米側に協力を求めた。(読売新聞12.30)

 −米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、米企業の衛星分析情報として、北朝鮮北西部に新たなミサイル基地とみられる施設が見つかったと報じた。
 VOAによると、新たな施設が発見されたのは、10月に北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイルを発射したとされる亀城近郊の飛行場から北方に約21キロの山岳地帯。1990年代に地下核施設の存在が指摘された金倉里にも近い。格納庫や組み立て用の建物、観測棟と推定される施設で構成される。
 この格納庫はイラン北西部タブリーズに2000〜03年ごろ建設されたミサイル基地の格納庫と酷似しているという。衛星情報を分析しているストラテジック・センティネル社のバレンクロー最高経営責任者(CEO)は、VOAに対し「イランが格納庫の設計図を北朝鮮に提供した」という見方を示し、「イランと北朝鮮がミサイル計画で協力していることを示す具体的な証拠となる」と指摘した。(時事)
                 

 

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