日朝政府間会談に関する日本の新聞、通信の報道
−2014年5月29日〜6月6日−
※は報道日、表記は報道のまま。 

 5月29日 −安倍晋三首相は29日夜、日本人拉致被害者を再調査することで北朝鮮と合意したと発表した。北朝鮮は約3週間後に特別調査委員会を立ち上げ、拉致被害者と拉致された疑いのある特定失踪者の調査などを開始する。これを受け、日本政府も北朝鮮に対する独自の制裁措置の解除を始める。再調査の合意は金正恩体制発足後では初めてとなる。
 安倍首相は首相官邸で「安倍政権にとり、拉致問題の全面解決は最重要課題の一つだ。全面解決へ向けて第一歩となることを期待している」と記者団に語った。
 日朝両政府は、26〜28日にスウェーデン・ストックホルムで、日朝外務省局長級協議を実施。日本外務省の伊原純一アジア大洋州局長と北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使がそれぞれ本国に合意案を報告し、両政府が正式に合意した。
 菅義偉官房長官は29日夜、緊急記者会見を開き、日朝両政府による合意文書を公表した。文書によると、北朝鮮側は拉致被害者や拉致の可能性がある特定失踪者、戦後に現在の北朝鮮に残された日本人らすべての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明。日本側はこれに応じ、最終的に、現在日本が独自にとっている北朝鮮に対する制裁措置を解除する意思を表明した。
 また、北朝鮮側は特別の権限が付与された特別調査委員会を立ち上げることや、調査の過程で日本人生存者が発見された場合には、状況を日本側に伝え、帰国させる方向で協議すること、などの行動をとるという。
 一方、日本側は北朝鮮側が調査を開始する時点で、北朝鮮当局者の入国禁止など人的往来の規制、10万円超の現金持ち出しの届け出義務、人道目的の北朝鮮籍船の入港禁止といった制裁措置を解除することや、人道的見地から適切な時期に北朝鮮に対する人道支援の実施を検討することなどを受け入れた。
 菅長官は会見の中で、日朝局長級協議で、拉致被害者の新たな安否情報があったかどうかを聞かれ、「そうしたことも交渉の中では行われていると思うが、具体的な内容については差し控えたい」と述べた。拉致問題をめぐっては、日本政府は拉致被害者として17人を認定し、うち5人は2002年に帰国。横田めぐみさんら残る12人について北朝鮮は死亡、または入国していないと説明していた。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は29日午後6時半ごろに「朝日政府間会談の結果と関連する報道」を配信。日本側が発表した合意文書とほぼ同じ表現で伝えた。同日夜の段階で、それ以上の論評は伝えていない。(朝日新聞5.30)

−菅長官の一問一答
 ・特別調査委員会の調査が検証可能だという言質は取っているのか
 調査を開始する時点までに具体的な組織、構成、責任者を日本側に通報すると明確な発言があった。今後、北朝鮮がいかなる構成の委員会を立ち上げ、調査を行っていくかを十分見極めた上で、わが国の部分的制裁解除は行われるということだ」

 ・調査委員会の立ち上げ時期は
 速やかにということになっているが、具体的には3週間前後だと報告を受けている」

 ・調査の期限は
 具体的にいつまで、ということは決まっていない」

 ・調査開始は何をもって判断するのか。具体的な成果がなかった場合の措置は
 「委員会を立ち上げて、調査を開始した時点で日本側の制裁を解除する。調査について逐次日本側に報告して日本側が調査結果を確認できる仕組みを作ったことは実効性を確保する上で極めて重要なことだ」

 ・北朝鮮が再調査する拉致被害者らの人数は
 「全体で、まだ掌握していない」
 ・人道支援は調査開始時点で検討するのか
 「現時点で人道支援を実施する具体的な見通しがあるわけではない。調査が始まって、調査の方向を見た上で検討したい」
 ・日本人拉致被害者の再調査実施に関し、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルの問題は条件に入っているのか
 「合意条件に入っていない。裁判所の下で競売の手続きが行われており、政府として司法に介入することは考えていない」
 ・今回の政府間協議で日本人拉致被害者の安否情報のやりとりは
 「そうしたことも交渉の中では行われていると思っているが、具体的内容は控えたい」
 ・日本の制裁解除の対象に北朝鮮貨客船「万景峰92」の入港再開は入っているのか
 「入っていない。(制裁解除の対象は)在日の北朝鮮の方が本国に対して医薬品などを送りたい場合などだと理解している」(産経新聞5.30)

 −米国務省のサキ報道官は記者会見で、日本と北朝鮮が拉致被害者の再調査などで合意したことについて「同盟国と連携し、透明性を持って拉致問題の解決に取り組む日本の努力を支持し続ける」と述べた。
 サキ氏は、日本から北朝鮮との合意に関して事前説明があったことを明らかにし、今後も連絡を取り合っていくと述べた。ただ、日本が対北朝鮮制裁を緩和することに対しては「(日本から)話を聞いていない」と述べ、言及を避けた。
 一方、下院外交委員会は29日、対北朝鮮制裁を強化する法案を可決した。法案は北朝鮮によるマネーロンダリング(資金洗浄)や人権侵害などに関与している内外の個人・団体を制裁対象とし、北朝鮮の一層の孤立化を狙っている。(時事)


 5月30日 −安倍首相は30日午前、北朝鮮が日本人拉致被害者の全面的な再調査を約束したことについて、確実に実行するよう北朝鮮側に強く促していく考えを示した。日本政府は、1年以内に調査結果を示すよう北朝鮮側に求める方針だ。
 安倍首相は、首相官邸で記者団に対し、「固く閉ざされていた拉致被害者救出の交渉の扉を開くことが出来た」と今回の合意の成果を強調。その上で、「北朝鮮が約束を実行するよう強く促していく」と述べた。菅官房長官も同日午前の記者会見で、「北朝鮮の調査は1年を超えることはない。長引かせるものではない」と語った。
 北朝鮮は今後、圏内の全ての機関を調査できる「特別調査委員会」を発足させ、6月中にも調査を開始する見通しだ。日本政府が29日発表した合意文書には、調査過程で日本人の生存者が発見されれば、「その状況を日本側に伝え、帰国させる」と明記された。(読売新聞夕刊5.30)

 −北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使は、日朝外務省局長級協議で議論された朝鮮総連中央本部の売却問題について、合意事項の「在日朝鮮人の地位に関する問題は、日朝平壌宣言にのっとって誠実に協議する」という項目に含まれるとの見解を明らかにした。スウェーデンのストックホルムから平壌に戻る際の経由地である北京で記者団の取材に答えた。
 日本政府が公表した合意文書には、日朝双方が取る行動措置としてそれぞれ7項目が列挙されている。日本側の5項目に「在日朝鮮人の地位に関する問題」が記され、宋大使は、この中に総連中央本部の売却や、朝鮮学校が高校無償化の対象から外れている問題が含まれると強調。「在日の民族的権利と企業への就職問題など、在日朝鮮人としての地位と役割などの問題がすべて在日問題になる」と指摘した。
 一方、日本人拉致被害者らに関する特別調査委員会について「双方が『迅速にやろう』と決めた以上、我々もそれに合わせて対応する」と語った。また、日航機「よど号」乗っ取り事件の実行犯引き渡し問題については「日本人に関する問題だが、他の(被害者の)日本人とは区別される」との認識を示した。
 さらに、記者団が「日本よりも譲歩したのではないか」と質問したのに対し、宋大使は「『譲った』『譲っていない』は重要ではない。せっかく合意が結ばれたのだから、今後、信頼関係を深めながら、必ずこの方向で解決できると進めていくことが大事だ」と訴えた。(毎日新聞5.31)

 −キャロライン・ケネディ駐日米大使は、東京・赤坂の米大使公邸で毎日新聞の伊藤芳明主筆と会見した。大使は、北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査開始について「拉致問題の解決に向けた日本の取り組みを支持する。緊密な協力を続けていきたい」と述べ、日本と連携する考えを示した。一方で「日米は引き続き、核、ミサイル開発問題を外交、安全保障政策の最優先課題として扱うと確信する」と語り、北朝鮮による核兵器や弾道ミサイルの開発問題が置き去りにならないようくぎを刺した。
 拉致問題の進展に期待を示す一方、北朝鮮が日米の分断を狙うことも想定し、日本に核、ミサイル問題を重視する姿勢を維持するよう促したとみられる。
 大使は、拉致被害者の横田めぐみさん(行方不明時13歳)の両親と面会した時の様子を振り返り「娘を取り戻そうという2人の勇気ある、つらい闘いに心を動かされた。オバマ大統領も心を動かされたようだ」と語った。そのうえで「日本は交渉の状況について米国に情報を提供している」と明かし、「日本と協力し、検証可能な形で朝鮮半島の非核化に向け取り組む」と強調した。(毎日新聞5.31)

 5月31日 −小野寺五典防衛相は、シンガポールで、米国のヘーゲル国防長官、韓国の金寛鎮国防相と会談した。小野寺氏は北朝鮮が拉致被害者らの全面調査を約束した先の日朝協議での合意内容を説明。「拉致、核、ミサイル全て解決する方向で、(日朝が)一致しないといけない」と述べ、包括的な解決が必要だとの認識を示した。
 ヘーゲル長官、金国防相は日本政府の方針に賛意を表明。3氏は会談後に共同声明を発表し、「北朝鮮の核、弾道ミサイルによってもたらされる安全保障の脅威に国際社会と連携した対応や緊密な協力を取る必要性を再確認した」と結束を強調した。
 日朝協議は、拉致被害者らの全面調査とともに、日本は制裁の一部を解除することで合意した。ただ、韓国は核・ミサイル問題を放置したまま日朝関係が進展することに懸念を示していた。(共同)

 6月1日 −菅義偉官房長官はNHK番組で、北朝鮮が日本人拉致被害者らの再調査を開始した時点で日本独自の制裁を一部解除する方針を巡り「効果的なものを交渉の過程で考えていきたい。したたかにやっていきたい」と語った。解除する制裁の内容は再調査への北朝鮮の姿勢を見て慎重に判断すると強調した。
 東京地裁が売却を許可した都内の朝鮮総連中央本部の売却を許可したことは、再調査の妨げにならないとの認識を示した。「裁判の過程に入っており、政府として(対応)できないとは何回となく説明している」と語った。
 再調査では「北朝鮮に滞在し関係者に会うことや地方まで出かけていくことが受け入れられている」と指摘。北朝鮮が再調査を始めた後に内容を検証するため、外務省や警察庁の職員を派遣する意向を示した。(日本経済新聞6.2)

 6月2日 −北朝鮮の宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使は、日本政府が招請すれば日本を訪問する可能性はあるかとの記者団の質問に「我々は今まで日本側の要請を断ったことはない」と応じた。日朝間の協議をさらに進めるためには自らの訪日も検討することを示唆、日本側に秋波を送った。北朝鮮への出発前に、北京空港で、記者団に語った。
 日本人拉致被害者問題の再調査を含む日朝合意については「今後、双方がさらに誠実に努力することが非常に重要だ」と述べ、前向きに取り組む姿勢を強調した。日本側が北朝鮮の貨客船「万景峰号」の入港禁止措置を解除しなかったことには「人道主義のための国際船舶だ。今後、日本側と協議していく」と述べ、解除を求めていく考えを示した。
 朝鮮総連中央本部の問題では、日朝合意に朝鮮総連の扱いも含まれるとの認識を改めて示し、合意に含まないとする日本側との認識の違いもみせた。(日本経済新聞夕刊6.2)

 −安倍晋三首相は参院本会議で、拉致被害者の再調査に伴う北朝鮮に対する制裁の解除について「北朝鮮側が特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始する時点で行動対行動の原則に従い、日本側として制裁を一部解除する」と述べた。そのうえで「北朝鮮側がいかなる組織・構成の委員会を立ち上げ、調査を行っていくかを見極めることなくして制裁解除を行うことはない」と語った。(毎日新聞6.3)

 6月3日 −岸田文雄外相は参院外交防衛委員会で、安倍晋三首相による北朝鮮訪問の可能性について、日本人拉致問題の全面解決に向け、選択肢として検討する考えを示した。「拉致問題で成果を挙げるために、最も効果的な方法は何かを絶えず考えなければならない。訪朝についても考えていくことになる」と述べた。民主党の白真勲氏に対する答弁。
 一方、安倍首相は同日、拉致問題の進展に向けて自身が北朝鮮を訪問する可能性について「今、判断するのは早計だ」と述べるにとどめた。羽田空港で記者団に答えた。(産経新聞6.4)

 6月4日 −政府は、北朝鮮による日本人拉致被害者らの調査実施を受け、平壌に拠点を設置する方針を明らかにした。公明党の外交・安全保障部会で外務省関係者が説明した。拠点は調査に対する報告を受ける窓口となるほか、調査結果に対する日本側の検証を行う際の連絡調整を担うものとみられる。ただ具体的な設置時期や体制などについては「現時点では決まっていない」とした。(毎日新聞6.5)

 6月5日 ※北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使は、先の日朝合意に盛り込まれた拉致被害者らに関する特別調査委員会設置の内部調整がすでに始まったと述べ、「責任を持って着実に準備している」と表明した。5日までに平壌で、共同通信との単独会見に応じた。
 宋大使は、拉致被害者以外も含む「全ての日本人」を対象に金正恩第1書記の体制で初めて実施される調査は、「かつての(拉致問題)再調査とは性格が異なる」と違いを強調。外交ルートを通じ日朝で情報を共有しながら作業が進められると語った。調査委発足の時期や調査期間は具体的に示さなかった。(共同)

 6月6日 −イタリアを訪問した安倍晋三首相は6日午後(日本時間同日夜)、ローマ市内のホテルで、同行記者団と懇談し、北朝鮮による拉致被害者らの再調査に関し、「具体的な成果が挙げられるよう取り組んでいく。北朝鮮に(調査の履行を)求めていく」と強調した。北朝鮮が貨客船「万景峰92」の入港禁止の解除を求めていることには、「入港を認める予定はない。北朝鮮側も承知しているはずだ」と否定した。(産経新聞6.7)

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