2016年 朝鮮半島核問題の主な動き

11月の主な動き
−※は報道日、表記は報道のまま−

 4日 −米財務省は6月に発表した北朝鮮への金融制裁強化の手続きを完了したと発表した。米金融機関は北朝鮮との取引禁止に加え、第三国の金融機関を通じた北朝鮮とのドル取引も禁じられる。核・ミサイル開発の資金調達網を締め付ける狙い。
 ズービン財務次官代行(テロ・金融犯罪担当)は声明で「北朝鮮は国際的な制裁を回避し、核・ミサイル開発の資金を調達しているが、正規の金融システムにそうした資金の場所はない」と強調した。
 財務省は6月、米愛国者法に基づいて北朝鮮を「マネーロンダリング(資金洗浄)の主要懸念先」に指定し、制裁を強化すると発表した。(共同)

 5日 ※北朝鮮の韓成烈外務次官らが10月末にクアラルンプールで米政府の元当局者らと協議した際、「安全保障上の懸念から核兵器が必要だ」と述べ、米側が求める核放棄には応じる考えがないことを伝えていたことがわかった。一方で、北朝鮮側は来年1月に発足する米新政権下でも接触を続けていくことを確認した。
 協議に参加したデトラニ元6者協議担当大使と米社会科学研究評議会のシーガル氏が2日、それぞれ朝日新聞記者の取材に応じ、交渉内容を明らかにした。
 北朝鮮側が、核兵器を援助などを引き出す外交カードではなく、体制維持の手段と捉えていることを裏付けた発言で、今後も核実験を続けていくことを改めて表明した形だ。ただ、交渉継続には前向きな姿勢を示したことで、米次期政権に、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変える交渉などの対話を呼びかける可能性を示唆したとみられる。
 2人はガルーチ元国務次官補とともに10月21、22の両日、韓次官らと協議した。米国務省は今回の接触について「米政府は関与していない」(カーピー報道官)との立場だが、デトラニ氏らは内容を米政府当局者に報告したという。
 デトラニ氏によると、米側は協議で、北朝鮮の核放棄を明記した2005年の6者協議共同声明に従うよう求めた。これに対し、北朝鮮側は、米軍による原子力空母や核搭載可能なB52戦略爆撃機の韓国への派遣、米韓行動軍事演習で「安全保障上の懸念が生じている」と指摘。自衛のために、核兵器を持つ必要性と核実験やミサイル発射を続ける考えを強調した。
 オバマ政権は、北朝鮮との接触を拒む政策をとってきたが、任期中に4度の核実験を許し、シーガル氏は「明らかな失敗」と批判。核開発を止めるには「交渉しかない」と指摘し、次期政権に交渉するように働きかけていくことを明らかにした。(朝日新聞11.5)

 8日 −1994年の米朝核枠組み合意で米首席代表を務めたガルーチ元国務次官補は、ワシントン市内で講演し、北朝鮮が米本土に達する核兵器を持てば「全てが変わる」と指摘、「北朝鮮の攻撃が迫っていると判断すれば、先制攻撃すべきだ」と強調した。その上で、米朝協議を模索するよう求めた。
 ガルーチ氏は先月、マレーシアで北朝鮮の韓成烈外務次官と会談し、米朝関係の現状について意見交換した。ガルーチ氏は講演で、北朝鮮は核保有で米側に対し軍事的に優位に立てると信じているが「北朝鮮の安全が致命的に揺らぐだろう」と見解を示した。
 北朝鮮側は「あなた方は核放棄を要求するが、米側が北朝鮮の体制転換に乗り出さないとどうして信じられるのか」と主張したという。会談では、米大統領選後の次期政権の対北朝鮮政策も話し合われたもようだ。
 ガルーチ氏は「(次期政権は)早い段階で(非核化)協議再開に向けた協議を模索すべきだ。協議中、北朝鮮が核・ミサイル開発を停止することが条件の一つになる」と指摘。ただ、失敗した際の次善の策には触れなかった。(時事)

 18日 −トランプ次期米大統領が国家安全保障問題担当の大統領補佐官に指名したフリン元国防情報局長は米東部時間の18日、ワシントンで韓国大統領府の趙太庸・国家安保室第1次長と協議し「次期政権では北朝鮮核問題を優先的に扱う」と述べた。趙氏が協議後に明らかにしたと聯合ニュースが伝えた。
 趙氏は、具体的な内容は公開しなかったが、フリン氏は米韓同盟を「核心的同盟」と呼び、強化していく考えも示したという。(共同)
 
 −北朝鮮の徐世平ジュネーブ国連代表部大使は、ロイター通信が18日に報じたインタビューで、トランプ次期米大統領について言及した上で、「在韓米軍が撤退し、平和協定を締結すれば、北朝鮮と(米国の)国交正常化につながる可能性がある」と述べた。
 トランプ氏に関係改善に向けたシグナルを送る狙いとみられるが、一方で徐大使は、北朝鮮が進める核開発と経済発展の「並進路線」は「継続される」とも述べた。
 トランプ氏は選挙中、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談の可能性を示唆。徐大使は会談は金氏の判断と指摘した上で、「北朝鮮への敵視政策をやめれば、1990年代に協議した関係(国交正常化)を話し合う機会が訪れるだろう」と語った。
 トランプ氏は10日、韓国の朴槿恵大統領と電話会談し、北朝鮮の脅威に対し、緊密に協力する意向を示している。(時事)

 21日 ※21日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮外務省は18日、金正日総書記が死去した2011年12月以降に、オバマ米政権が実施した対北朝鮮制裁や軍事演習などを羅列した「備忘録」を発表した。北朝鮮外務省は、米国が軍事、経済的に圧力を強めてきたと非難し、「核の脅威に対する自衛措置として、核武装の道を選択した」と主張。「時代錯誤的な敵視政策の撤回を行動で示すべきだ」と訴えた。
 次期米大統領にトランプ氏が選ばれ、政権移行期であることを念頭に、北朝鮮が先に非核化に向けた措置を取らない限り対話に応じないとするオバマ氏の「戦略的忍耐」政策の転換を促す狙いとみられる。(時事)

 25日 −北朝鮮の労働新聞は25日付の論評(電子版)で、トランプ米次期政権に対して「我々の核抑止力は、政治・経済的な取引の対象ではない」とし、北朝鮮の核廃棄を目指した6者協議などでの再交渉を拒否する姿勢を示した。「軍事的圧力は永遠に通じない。米国の政策立案者は戦略的な選択をすべきだ」と主張した。論評は「我々の核兵器は小型化、軽量化、多種化を実現した」とし、「米国の核の脅威がある限り、決して放棄できない」と強調した。北朝鮮は米次期政権に対し、核保有国としての地位を認めさせ、核軍縮と引き換えに、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変える交渉を求めるとみられる。(朝日新聞11.26)

 29日 ※北朝鮮の国連代表部が、5回目の核実験を受け制裁決議案交渉を進めている国連安全保障理事会に対し、オバマ米政権による敵視政策を非難する「備忘録」を送付していたことが29日、分かった。安保理外交筋が明らかにした。
 安保理は制裁決議案を30日午前(日本時間同日深夜)に採決する方向で最終調整に入っており、こうした動きをけん制する狙いがあるとみられる。文書は安保理議長国に22日に送付され、その後、全15理事国に配布された。
 備忘録は2011年12月の金正日総書記死去後、オバマ政権が北朝鮮の体制を転覆する目的を追求していると主張。米国の対北朝鮮制裁や米韓合同軍事演習の規模拡大を列挙し「米国の恒常的な核による威嚇から自国を守るための自衛的措置として核武装の道を選んだ」として核・ミサイル開発を正当化した。(共同)

 30日 −国連安全保障理事会は30日午前(日本時間30日深夜)、北朝鮮による9月9日の5回目の核実験を受けた新たな制裁決議案を全会一致で採択した。北朝鮮の主要な資金源となっている石炭の輸出に上限額・量を設け、核ミサイル開発の資金流入を遮断する内容だ。
 安保理の対北朝鮮制裁決議は、北朝鮮が2006年10月に初の核実験を強行して以降、6回目。
 米国は中国に制裁の大幅な強化を働きかけた。「スピードより内容を重視」(国連外交筋)した結果、交渉はこれまでの対北朝鮮制裁決議で最長の2か月半を要した。採択後の演説で米国のパワー国連大使は「今回の決議は、北朝鮮の総輸出額の25%にあたる8億ドルの収入を減らす効果がある」と意義を強調した。
 決議は米国が、日本や韓国などと協議した上で起草した。今年1月の核実験を受けて3月に採択された前回の決議を強化することが柱だ。1)民生用に限り認められている北朝鮮からの石炭輸出に、年間約4億ドルか750万トンの上限を設定2)銅やニッケルなどの輸出を全面禁止3)北朝鮮が所有、運航する船舶の登録取り消し4)海外駐在の北朝鮮外交官らの数を減らし、保有する銀行口座の数も制限−などが盛り込まれた。
 また、前回の決議では違法行為に関与した疑いのある外交官の国外追放などが定められたが、今回は、北朝鮮の銀行や金融機関のために働く個人を、医療・人道目的などを除いて追放することを加盟国に義務付けた。北朝鮮の政府関係者らが身分を偽るなどして違法取引や外貨稼ぎに従事することを防ぐ狙いだ。
 北朝鮮の貴重な外貨獲得手段として注目されている海外派遣労働者についても初めて言及し、各国に警戒を求めた。(読売新聞12.1)

 −5度目の核実験を強行した北朝鮮への制裁強化決議が国連安全保障理事会で採択されたのを受け、決議を主導した米国のパワー国連大使は、全会一致での採択を歓迎し、「安保理が近年どの国に科した制裁よりも厳しい」と成果を強調した。
 新決議は北朝鮮の輸出による年間の外貨収入約30億ドル(約3360億円)のうち、3分の1を占める石炭の輸出に上限を設定。その他の分野にも制裁は幅広く及んでいることから、パワー氏は、決議が履行されれば北朝鮮の外貨収入の25%に相当する総額8億ドル(約900億円)を削減できる、と強調した。
 パワー氏はまた、シリア情勢などで安保理が深刻な分裂に陥る中でも、新決議が全会一致で採択された意義を強調した。
 日本の別所浩郎・国連大使も全会一致を評価した上で、「もし北朝鮮が非核化に真剣に取り組み、具体的な行動をとれば我々は対話を始める準備ができている」と北朝鮮に呼び掛けた。
 一方、中国の劉結一・国連大使は「中国は北朝鮮の行為(核開発)に断固反対だ」と強い姿勢を示しながらも、米韓の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の朝鮮半島への配備計画が「中国の戦略的な安全保障上の利益を深刻に損なっている」と、反対姿勢を改めて強調した。ロシアも「強く非難する」とTHAADに反対した。(朝日新聞夕刊12.1)

 

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