地下水に関しての法について
−2009年8月19日−

 近年、地下水にたいする関心が、急激な高まりをみせている。ここでは、地下水に関しての法律を紹介する。


資料1−地下水をめぐる法体系

 地下水をめぐる法について国土交通省の資料(2008年)によると、「わが国に地下水法は存在しないが、地下水に関連する主な法律として下記するものがある」とし公開している。資料は、「(1)水文に関する法制度(2)地下水の採取・利用に関する法制度(3)地下水の水質保全に関する法制度(4)水調査・開発に関する法制度」と体系化している。

 国土交通省の資料は、(5)項で「地方自治体における条例・要綱等」の現状を紹介している。考察の便宜上、別稿に記載する。

 以下に、(1)〜(4)までの法を紹介する。表記は「○名称(制定年)−地下水の位置づけ」

 
 ○河川法(1964年)−河川管理者が定める「河川整備基本方針」について、河川法施行令では、「河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項については、(中略)地下水位の維持等を総合的に考慮すること。


 ○砂防法(1897年)−「(前略)地方行政庁ハ治水上砂防ノ為一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限スルコトヲ得」(砂防のために地下水流動変化が起こる可能性のある開発等を制限している。)


 ○地すべり等防止法(1958年)−・地すべり防止施設の築造について、地下水の排除については、暗渠(中略)又は導水管を用いること。

 ・地すべり防止区域内において、地下水を誘致し地下水の排除を阻害する行為、地下水を放流し地表水の浸透を助長させる行為等については、都道府県知事の許可を受けること。

 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(1969年)−・急傾斜地崩壊危険区域内において、水を放流し浸透を助長する行為、ため池・用水路等の設置・改造、切土・盛土等の行為は都道府県知事の許可を受けること。

 ・急傾斜地崩壊防止工事は、崩壊の原因、機構、規模に応じて有効かつ適切なものであること。


 ○森林法(1951年)−水源のかん養、土砂の流出の防備、土砂の崩壊の防備といった目的のために森林を保安林に指定することができる。


 ○土地改良法(1949年)−土地改良事業には、農業用用排水施設、農業用道路その他農地の保全又は利用上必要な施設の新設、管理、廃止、変更を含む。


 ○工業用水法(1956年)−・政令で定める地域(「指定地域」)内の井戸により地下水を採取してこれを工業の用に供しようとする者は、井戸ごとに、そのストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積を定めて、都道府県知事の許可を得なければならない。

 ・「指定地域」の要件としては、地下水を採取したことにより、地下水の水位が異常に低下し、塩水若しくは汚水が地下水の水源に混入し、又は地盤が沈下している一定の地域について、工業の用に供すべき水の量が大であり、地下水の水源の保全を図るためにはその合理的な利用を確保する必要があり、かつ、その地域に工業用水道がすでに布設され、又は一年以内にその布設の工事が開始される見込みがある場合に定める。(具体的には、宮城県、福島県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県の10都府県で指定されている。)


 ○建築物用地下水の採取量規制に関する法律(ビル用水法)(1962年)−・指定地域内の揚水設備により建築物用地下水を採取しようとする者は、揚水設備(井戸)ごとに、そのストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積を定めて都道府県知事の許可を受けなければならない。

・指定地域の要件としては、「当該地域内において地下水を採取したことにより地盤が沈下し、これに伴って、高潮、出水等による災害が生じるおそれがある場合」とされている。(具体的には、埼玉県、千葉県、東京都、大阪府の4都府県で地域指定されている。)


 ○鉱業法(1950年)−・国は、まだ掘採されていない鉱物について、これを掘採し、及び取得する権利を賦与する権能を有する(鉱業権は土地所有権とは独立した物権とみなされる)。

 ・鉱業権者は、公共の用に供する施設・建物の地表地下とも50m以内の場所において鉱物を掘採するには、管理庁又は管理人の承諾を得なければならない。

 ・掘採が、保健衛生上害があり、公共の用に供する施設を破壊し、その他の産業の利益を損じ、著しく公共の福祉に反するようになったと認めるときは、鉱業権の取消・縮小の処分が行える。

・鉱物の掘採のための土地の掘さく等によって他人に損害を与えたときは、その損害を賠償する責を有する。


 ○採石法(1950年)


 ○砂利採取法(1968年)−・岩石・砂利の採取における災害・公共施設の損傷の防止、他の産業の利益との調整については、「採取計画の認可」を通じて行われる。


 ○公害対策基本法(1967年)−大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下、悪臭による人の健康及び生活環境の被害を「公害」と定めている。


 ○環境基本法(1993年)−政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれの人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。


 ○水質汚濁防止法(1970年)−多数の地下水汚染が顕在化してきたことに伴い、有害物質を含む水の地下への浸透を禁止及び地下水の水質の監視体制の導入による地下水汚染の未然防止、地下水の水質の浄化に係わる措置命令等に関する制度的枠組みを唱えている。

 なお、民法では、汚水溜めなどは土地の境界から2メートル以内につくることを禁止し、刑法では浄水汚染罪や水道毒物混入罪の規定がある。


 ○国土調査法(1951年)


 ○水資源開発促進法(1961年)−・産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水供給を確保するため、水源の保全かん養と相まって、河川の水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の促進を図り、もって国民経済の成長と国民生活の向上に資することを目的とする。

 ・内閣総理大臣は広域的な用水対策を緊急に実施する必要があると認めるときは、水資源の総合的な開発及び利用の合理化を促進する必要がある河川の水系を「水資源開発水系」として指定し、当該水資源開発水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の基本となるべき「水資源開発基本計画」を決定する。

 ・この基本計画には、水の用途別の需要の見通し及び供給の目標、これを達成するため必要な施設の建設に関する事項、その他の重要事項を記載する。



資料2−地下水の法律上の位置づけ

 松本充郎氏は「地下水法序説」(「四万十・流域圏学会誌」第7巻 第2号 2008)で、「地下水の利用・管理関係を法的に制限する場合にいかなる法形式を用いることができ・いかなる制限が行えるか」を問い、「地下水の法律上の位置づけ」を次のように論じている。以下、その全文。


 「地下水の利用・管理関係を法的に制限する場合にいかなる法形式を用いることができ・いかなる制限を行えるか。ここでは、既存の法律の規定・逐条解説・立法過程における議論を瞥見することにより、地下水の法律上の位置づけを確認する。

 まず、土地所有権の制限に関する立法例として、土地の構成物である鉱物に対する支配権能を土地所有権から除外して国に帰属させ、国が独占的に与える鉱業権によってのみ採掘しうるとした鉱業法がある。土地所有権を制限する「法令」として、民法が269条の2において用益物権として地下又は空間を目的とする地上権について規定するほか(区分地上権)、物理的範囲(地下)にかかわる「法令」として大深度地下の公共的利用に関する特別措置法がある(大深度地下利用法)。

 次に、地表水の水利権について定めた立法例として、河川法(23条。一定の伏流水を含み、河川法が適用・準用されない河川については普通河川条例を制定することがあることは既に述べた)があり、地下水の水利権について定めた法律として、温泉法・工業用水法・建物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)がある。さらに、水質を管理する目的・機能を持つ法律として、水質汚濁防止法12条の3や土壌汚染対策法等がある。

 旧河川法が、「河川並びにその敷地若しくは流水は私権の目的となることを得ない」としていたのに対して(旧法3条)、現在の河川法は、「河川の流水は、私権の目的とならない」(2条2項)としただけで河川及び敷地については私権排除の規定を設けていない。この規定は、流水を「国有」としたものと考えることも不可能ではないが、国家の領域支配には属するが私的所有権の対象とならないということを述べものと考えるのが妥当である。

 工業用水法・ビル用水法の規定は、地下水が土地所有権の内容であるかどうかという点について直接触れてはいない。立法史を参照した限りでは、工業用水法制定時には、土地所有権の内容であるが内在的制約であるとする(第24回国会商工委員会第22号・1956年3月23日。徳永久次政府委員[通商産業省企業局長・当時]の発言を参照)。ビル用水法制定時には、土地所有権の内容であるかどうか議論が分かれているとの記録がある(第40回国会建設委員会第20号・1962年4月5日。齋藤常勝政府委員[建設省住宅局長・当時]は地下水が「所有権の対象」であることを前提として「規制をしていくことになった」とするのに対して、山内一郎政府委員[建設省河川局長・当時]は[地下水は公水かという趣旨の質問に対して]住宅局長のような考え方もあるが学説は分かれていると答弁している)。

 なお、特定汚染源からの排水について、水質汚濁防止法12条の3は有害物質に該当する物質の地下浸透を禁止している。また、有害物質に該当する物質の地下浸透によって人の健康被害が現実に生じ、または生じるおそれがあると認められるとき、都道府県知事は地下水の浄化のための措置をとることを命ずることができる(14条の3)。そして、地下水の水質は、土壌の汚染を防止できるかどうかにかかっており、既に、土壌汚染対策法・農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)が制定されている。

 さらに、水道水源の水質に関する国法の規定として、水道法43条に加え、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法(水道水源特別措置法)及び水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律(水道原水事業法)がある(いわゆる水道水源二法)。また、廃棄物処理施設の排水の水質は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)が定める処理方法(6条の2第2項・第3項)と業者の規制(7条・15条)・保管方法(15条の2。産業廃棄物処理施設の構造や維持管理の方法)によって、影響を受けうる。これらに関する検討は別稿に譲る。」


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